素直と天然と少しの頑固を加えて

おまけ ~りんりんと高柳さん~

バレンタインの日に、デートの約束をしていた同じ学部の彼。
待ち合わせ場所にはすでに待っていてくれた。
学生には似合わないお洒落なレストラン。
ワインを選んで、チョコレートを渡すと、どこからかシャッター音?

撮られた?
彼は『インフルエンサーのりんりん』とのデート写真と動画を投稿サイトに載せたかったみたい。
ちょっと離れたところから友だちが撮ってるのが見えた。

むかつく!
チョコレートを取り返した。こんなやつに、大切なチョコを渡すわけにはいかないから。
ちょうど来たワインを彼にかけて店を飛び出した。
ずっとシャッター音が聞こえてたけどそんなのは気にならなかった。

気が付けば、さっきまでいた事務所に戻っていた。

『バレンタインだからもうみんな帰ってしまってるのに…、』
思ったけど、まだ電気が付いていた。

ドアを開けると、高柳さんがチョコレートを溶かしてる。
楽しそうに話し掛けてるようにも見える。
おじさんなのに、可愛いと思ってしまった。
SNSとか動画サイトとか、もうどうでも良くなった。
『美味しいのが好き』、『チョコレートが好き』
それだけで良いんだ。

じっと見てたら、気が付いてくれた。
なにも聞かずに、「写真撮ってくれる?、格好良くね」って。

近付いて行くと、「作ってみる?」
こんなプロの隣で恥ずかしい。
「あげる人がいないなら、貰いたいんだけど。くれると嬉しいな」
素材は良いのに、見た目が小学生の調理実習のような仕上がりのチョコレートが出来上がった。

「美味しいね」
それだけで、なにも聞かないし話さない。

休みの日もキッチンに来て作業をしているという。
私の休日もここに来るようになった。