柊哉side
しばらくの間、存在を確認する様に優茉を強く抱きしめた。彼女の体温を感じ徐々に気持ちが落ち着いてきた頃、一度だけキスをしてソファに降ろす。
「実は...私の母も、同じ様な状態だったそうなんです」
「...同じ、状態?」
「はい。病院に搬送されすぐにオペになったそうなんですけど、頭部の損傷が激しくすでに手の施しようがない状態だったと。それでも担当してくれた先生は、諦めずに最後まで手を尽くしてくれたそうで、祖父母は感謝していると言っていました」
「そうだったのか...」
「...そのご家族も今は深い悲しみに耐える事で精一杯だと思いますけど、諦めずに可能性を探してくれた柊哉さんや先生方がいたから、その想いはきっといつか、前を向く為の力になると私は思います」
「優茉...」
記憶がないとはいえ、彼女もかけがえのない存在を亡くした痛みを知っている。そんな彼女の言葉は、心の奥深くに空いた穴をそっと塞いでくれるようだった。
「実は、もう少しで母の命日なんです。もし良かったら、今年は一緒にお墓参りに行ってくれませんか...?」
「もちろん、いつかご挨拶に伺おうと思っていたから。命日はいつ?」
「三月二十一日です。実は私の誕生日の一週間後なんです」
... 三月、二十一日?
そんな偶然が、あるのだろうか...。だって、その日は...
「...柊哉さん?」
言葉が出ない俺を、優茉は不思議そうに見つめている。
「...その日は一緒に行こう」そうなんとか言葉を振り絞り、優茉の手を引いてベッドに入った。
本当に偶然なのだろうか...?あまりに残酷な仮説が頭に浮かび、優茉を抱きしめたまま動けなくなった。しかし一刻も早くその仮説を確かめたくなり、彼女が眠ったことを確認してから自室へ行き、遅い時間なのは承知で伊織に電話をかけた。
「柊哉?こんな時間にどうしたの?」
「遅い時間に悪い。ちょっと...伊織に頼みたい事があるんだ」
「...どうしたの?何かあった?」
「実は...俺の母さんの事故の事を詳しく知りたいんだ。何でも良い、当時の状況とか被害者の事とか何か」
「待ってよ柊哉!何があったか教えてよ!急にお母さんの事故の事を聞くなんて...」
不審がるのも当然だろう。伊織と翔は当時の俺の状況も知っているし、かなり気を遣ってくれていた。それに俺から母さんの話をする事も多分初めてだ。
「...今は話せない。ただどうしても、あの時の事を詳しく知りたいんだ。なるべく早く頼めないか?」
「調べられなくはないし、柊哉は遺族だから知る権利はあると思うけど...。じゃあ、今は何も聞かないから話せる時が来たらちゃんと教えてよ?」
「ありがとう、何か分かったらすぐに教えて欲しい」
「...はぁー、俺もそれなりに忙しいんだからね?それにかなり前の事だし、どこまで調べられるかは分からないからあんまり期待しないでよ?じゃあ、おやすみ!」
伊織はいつもの口調に戻り、俺を気遣うように明るくそう言って電話を切った。
寝室に戻り優茉の穏やかな寝顔を見ると、胸が張り裂けそうになる。
もしも...もしもこの仮説が事実だったとしたら...俺はもう、彼女のそばにいる事は...。優茉の髪を撫で寝顔を見つめていると、気がつけば窓の外は朝日が昇り始めていた。
翌朝、いつも通りを装いながら優茉の作ってくれた朝食を食べ、いつもより早く家を出てそのまま院長室へと向かった。
「柊哉か。どうした?朝早くから」
「...父さんに、聞きたい事がある」
書類に向けていた視線を上げ、俺の雰囲気を察したのかあからさまに怪訝な顔をする。
「...何の事だ?」
「母さんの、事故のこと。知っている限り教えて欲しい」
「...急に何だ?なぜ今事故のことを知りたいんだ」
「気になる事がある。どうしても、それを確かめたい」
俺の意が伝わったのか、父さんは重い腰を上げソファに腰掛ける。そして、渋々と言った感じで当時の事を少しずつ話し始めた。
しばらくの間、存在を確認する様に優茉を強く抱きしめた。彼女の体温を感じ徐々に気持ちが落ち着いてきた頃、一度だけキスをしてソファに降ろす。
「実は...私の母も、同じ様な状態だったそうなんです」
「...同じ、状態?」
「はい。病院に搬送されすぐにオペになったそうなんですけど、頭部の損傷が激しくすでに手の施しようがない状態だったと。それでも担当してくれた先生は、諦めずに最後まで手を尽くしてくれたそうで、祖父母は感謝していると言っていました」
「そうだったのか...」
「...そのご家族も今は深い悲しみに耐える事で精一杯だと思いますけど、諦めずに可能性を探してくれた柊哉さんや先生方がいたから、その想いはきっといつか、前を向く為の力になると私は思います」
「優茉...」
記憶がないとはいえ、彼女もかけがえのない存在を亡くした痛みを知っている。そんな彼女の言葉は、心の奥深くに空いた穴をそっと塞いでくれるようだった。
「実は、もう少しで母の命日なんです。もし良かったら、今年は一緒にお墓参りに行ってくれませんか...?」
「もちろん、いつかご挨拶に伺おうと思っていたから。命日はいつ?」
「三月二十一日です。実は私の誕生日の一週間後なんです」
... 三月、二十一日?
そんな偶然が、あるのだろうか...。だって、その日は...
「...柊哉さん?」
言葉が出ない俺を、優茉は不思議そうに見つめている。
「...その日は一緒に行こう」そうなんとか言葉を振り絞り、優茉の手を引いてベッドに入った。
本当に偶然なのだろうか...?あまりに残酷な仮説が頭に浮かび、優茉を抱きしめたまま動けなくなった。しかし一刻も早くその仮説を確かめたくなり、彼女が眠ったことを確認してから自室へ行き、遅い時間なのは承知で伊織に電話をかけた。
「柊哉?こんな時間にどうしたの?」
「遅い時間に悪い。ちょっと...伊織に頼みたい事があるんだ」
「...どうしたの?何かあった?」
「実は...俺の母さんの事故の事を詳しく知りたいんだ。何でも良い、当時の状況とか被害者の事とか何か」
「待ってよ柊哉!何があったか教えてよ!急にお母さんの事故の事を聞くなんて...」
不審がるのも当然だろう。伊織と翔は当時の俺の状況も知っているし、かなり気を遣ってくれていた。それに俺から母さんの話をする事も多分初めてだ。
「...今は話せない。ただどうしても、あの時の事を詳しく知りたいんだ。なるべく早く頼めないか?」
「調べられなくはないし、柊哉は遺族だから知る権利はあると思うけど...。じゃあ、今は何も聞かないから話せる時が来たらちゃんと教えてよ?」
「ありがとう、何か分かったらすぐに教えて欲しい」
「...はぁー、俺もそれなりに忙しいんだからね?それにかなり前の事だし、どこまで調べられるかは分からないからあんまり期待しないでよ?じゃあ、おやすみ!」
伊織はいつもの口調に戻り、俺を気遣うように明るくそう言って電話を切った。
寝室に戻り優茉の穏やかな寝顔を見ると、胸が張り裂けそうになる。
もしも...もしもこの仮説が事実だったとしたら...俺はもう、彼女のそばにいる事は...。優茉の髪を撫で寝顔を見つめていると、気がつけば窓の外は朝日が昇り始めていた。
翌朝、いつも通りを装いながら優茉の作ってくれた朝食を食べ、いつもより早く家を出てそのまま院長室へと向かった。
「柊哉か。どうした?朝早くから」
「...父さんに、聞きたい事がある」
書類に向けていた視線を上げ、俺の雰囲気を察したのかあからさまに怪訝な顔をする。
「...何の事だ?」
「母さんの、事故のこと。知っている限り教えて欲しい」
「...急に何だ?なぜ今事故のことを知りたいんだ」
「気になる事がある。どうしても、それを確かめたい」
俺の意が伝わったのか、父さんは重い腰を上げソファに腰掛ける。そして、渋々と言った感じで当時の事を少しずつ話し始めた。
