それからは、忙しい日々の中でもお互いに求め合うようになっていた。身体を撫でられるだけで奥が疼き始めるようになってしまった私は、もうすっかり彼に染められているのかもしれない。でもそれが心地よくて幸せで、どっぷりと彼の愛情に浸ってしまっていた。
そんな日々が続いたある日。
二十三時過ぎに帰宅した柊哉さんは、珍しく疲弊したような浮かない顔をしていた。
思わず「何かあったんですか...?」と尋ねると、ソファに座りふぅーと深く息を吐き出す。いつも凛としている彼のこんな姿は、見たことがなかった。
「昼間、車が歩行者をはねる事故があって四名が救急に搬送されてきた。その直前にも複数人が絡む事故があったようで、ドクターが足りなくて水島先生と二人で降りたんだ」
「そう、だったんですね」
「そのうちの三名が赤タグで、かなり危険な状態だった。その中の一人で頭部外傷の患者のオペに入ったんだけど、頭蓋骨の損傷がひどく急性硬膜下血腫も起こしていて、開頭した時にはもう、手遅れの状態だった...」
私には想像するだけでとても怖く、言葉が出てこない。
「医者だからこういう経験は何度かしているんだけど。オペに入っておきながら、あまりに無力で...。その患者はまだ三十代の女性で、待機室に行くとその女性の夫が一歳くらいの小さな女の子を抱いて座っていたんだ。...なぜか、その時、優茉の事が頭に浮かんで...冷静で、いられなくなりそうで...」
思わず、ソファに膝立ちになって彼の頭ごとぎゅっと抱きしめた。私には想像すら出来ない緊張感やプレッシャーに耐え、命と向き合い戦い続けている彼は、本当にすごい人だ。
一歳の時に事故で母親を亡くした私とそのご家族が重なって、必要以上に心を痛めたのかもしれない。ふわふわと彼の頭を撫でると、膝に乗せられぎゅうっと強く抱きしめられた。
私が彼にしてあげられる事なんてないかもしれないけれど、せめて心の痛みくらいは分けてほしい。それで彼の心が少しでも軽くなるのなら...いくらでも分けてほしい。
そんな日々が続いたある日。
二十三時過ぎに帰宅した柊哉さんは、珍しく疲弊したような浮かない顔をしていた。
思わず「何かあったんですか...?」と尋ねると、ソファに座りふぅーと深く息を吐き出す。いつも凛としている彼のこんな姿は、見たことがなかった。
「昼間、車が歩行者をはねる事故があって四名が救急に搬送されてきた。その直前にも複数人が絡む事故があったようで、ドクターが足りなくて水島先生と二人で降りたんだ」
「そう、だったんですね」
「そのうちの三名が赤タグで、かなり危険な状態だった。その中の一人で頭部外傷の患者のオペに入ったんだけど、頭蓋骨の損傷がひどく急性硬膜下血腫も起こしていて、開頭した時にはもう、手遅れの状態だった...」
私には想像するだけでとても怖く、言葉が出てこない。
「医者だからこういう経験は何度かしているんだけど。オペに入っておきながら、あまりに無力で...。その患者はまだ三十代の女性で、待機室に行くとその女性の夫が一歳くらいの小さな女の子を抱いて座っていたんだ。...なぜか、その時、優茉の事が頭に浮かんで...冷静で、いられなくなりそうで...」
思わず、ソファに膝立ちになって彼の頭ごとぎゅっと抱きしめた。私には想像すら出来ない緊張感やプレッシャーに耐え、命と向き合い戦い続けている彼は、本当にすごい人だ。
一歳の時に事故で母親を亡くした私とそのご家族が重なって、必要以上に心を痛めたのかもしれない。ふわふわと彼の頭を撫でると、膝に乗せられぎゅうっと強く抱きしめられた。
私が彼にしてあげられる事なんてないかもしれないけれど、せめて心の痛みくらいは分けてほしい。それで彼の心が少しでも軽くなるのなら...いくらでも分けてほしい。
