...俺は、彼女を救えるような医者になりたい。
 病気だけじゃなく、彼女を悲しみからも救ってあげたい。
 この時、初めて自分の意志でそう思った。それはまるで、白一色だった世界に彼女が色をつけてくれたような感覚。
 掌に残った彼女の温もりと四葉のクローバーをぐっと握って立ち上がり、すぐに家へ戻って宿題を終わらせると参考書を開きひたすら勉強に明け暮れた。

 夢では彼女が泣き出した所で必ず目が覚め、その度にあの時の気持ちも鮮明に思い出される。手帳に挟んである少し色褪せた緑の四葉のクローバー。それがこの夢は現実に起きた事だと証明してくれている。
 彼女は元気にしているのだろうか。なぜあの時、名前も聞かなかったのだろう...。もう二十二年も前のたった数分の出来事なのに、あれから一時も忘れた事はない。

 そんな事を考えながら作業をしていると最低限の片付けは終わっていた。あとは少しずつ片付けていけば大丈夫だろうとソファに身体を預けた時スマホが着信を告げる。
 「もしもし?翔?」
 「おう柊哉、もう日本に帰ったきたのか?」
 「ああ、荷物も片付いたところ」
 「そうか、おかえり!近いうちに伊織も誘って飲みに行こうぜ」
 「そうだな、久しぶりにあの店にも行きたいし」
 「じゃあ伊織にも連絡しとくから。またな!」
 俺の数少ない親友からの久しぶりの誘いに、日本に帰ってきた事を実感してきた。カナダにいた時もそれなりに快適だったしホームシックになった事もないが、やはり日本に帰ってくると空気というか安心感の様なものに包まれた。

 翌朝、歩いて病院へ向かいまずは院長に帰国の報告をする。院長とは俺の父だが、向こうにいる間も連絡は取っていなかった。昔から会う事も少なかった為相変わらず親子らしい会話なんて皆無で、ほとんど業務連絡のような会話をしてから部屋をあとにし、外科部長の橘先生の所へ向かった。