エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

柊哉side
 優茉が出て行ってから、家の中は寒く暗いだだっ広い空間になった。今はもうここに帰ってきたいとはとても思えない。
 あの夜、抱きしめて眠ったはずなのに気づけば彼女の姿は何処にもなかった。悲しさと焦りが入り混じった複雑な気持ちで、優茉が用意してくれた朝食を一人で食べた。
 それからはメッセージを送っても返事はなく、まるで俺との繋がりを断とうとしているよう。
 きっと何かあったのだろうが、全くその理由を掴めない。強引に聞き出すことも出来ないし、どうしたら...。

 医局でパソコンを見ながらコンビニで買ってきたサンドイッチを食べていると橘先生が隣に座った。
 「最近お弁当はどうしたの?作ってくれる人が出来たんだって僕も嬉しかったのに。何かあったの?」
 「まぁ、色々と...」
 「喧嘩でもした?そういう時は男から謝った方が賢明だよ。結婚してるわけでもないのに毎日お弁当作ってくれるなんて、いい子なんだろなぁと思ってたよ」
 「喧嘩をした訳では...。理由はわからないんですけど、家を出て行ってしまって...」
 「え、一緒に住んでたの⁈」
 「...一応そうですね」
 「へぇ、知らなかったよ!じゃあ結婚も考えていたんだろう?なのに突然出ていってしまったわけか...。理由を聞ける様な状態じゃないの?」
 「メッセージも返信してくれませんし、避けられている様な状態ですね」
 「ふぅーん?」と考えるような仕草をする橘先生。つい話してしまったが、俺は何を言っているのだろうと後悔し始め席を立とうとした時。
 「きっとその子、献身的でとても思いやりがある。優しくて自己犠牲を払ってしまう様なタイプじゃない?」
 「...どうして分かるんですか?」
 「ま、生きてる年数が違うからね〜。そういうタイプの子が何も言わずに出ていってしまうという事は、もしかしたら君のためかもしれない」
 「...俺の、ため?」
 「君に何か迷惑がかかるとか、自分とは関わらない方がいいとか。それで自ら身を引いたって事も考えられるんじゃないか?」
 そんな事、考えもしなかった...。確かに優茉なら俺に迷惑がかかると思えば自分から離れる事を選ぶだろう。でもその理由がわからない...。
 結局もやもやした気持ちは残ったが、休憩を終え午後からは回診の為病棟へと向かった。

 それを終えた頃、救急の応援に行きスクラブが汚れたのでロッカー室で着替えていると結城が入ってきた。
 「お疲れ!なんか顔が疲れてるけど、ちゃんと家帰って寝てるのか?」
 「まぁ、それなりにな」
 「そうだ!ずっと気になってたんだよ。香月、あの子とどうにかなってるのか?」
 「あの子って?」
 「ほら、お前んとこのクラークの宮野さんだよ」
 「...どうして?」
 「昨日また彼女が発作起こして俺のとこに来たから。病棟で風見くんの手伝いしてる最中だったらしくて、彼が連れてきたよ」
 「それで?彼女の様子は?大丈夫なのか?」
 「点滴して帰したよ。でも多分今回のは強いストレスが原因だろうな、思い詰めた顔してたし本人も心当たりがありそうだった。だから何か知らないかと思って。あのままだとまた同じ事になるよ」
 ...発作を起こすほどの、強いストレス?
 俺の、せいか...。優茉をそこまで苦しめていたなんて...気づいていなかった自分が情けなくて腹が立つ。
 「...俺にもわからない。でも、俺のせいかもしれない」
 「え?じゃあやっぱり宮野さんと...」
 「今度ちゃんと話すよ、教えてくれてありがとう」

 どうしても優茉の顔が見たくて足早にナースステーションへと向かうがそこに彼女の姿はない。ここで待つか医局に戻るか迷っていると、天宮さんが困惑した様子で遠慮がちに話しかけてきた。
 「あの...香月先生って、優茉ちゃんと何かあったんですか?」
 「...どうして?」
 「さっき加賀美製薬の社長の娘という方が来て、また優茉ちゃんに話があるって連れ出して行ったんです」
 ...加賀美製薬の、社長の娘?まさか、院長が言っていた見合い相手か...?
 「え?またって?それに、どうしてそれで俺と宮野さんの関係が気になったの?」
 「実は前にも一度ここに来たんです。その時優茉ちゃんに"香月先生の婚約者だって言えば分かるかしら?"って彼女が言っていたので、どういう事なのか気になって...」
 ...そういう事か。発作を起こすほどの強いストレス...やっぱり、俺のせいだ。
 「二人はどこに?」
 「え?わかりません。でも、きっとひと気の無い所に行ったんじゃ...?」
 「ありがとう」
 「あっ、香月先生⁈」
 一刻も早く優茉を見つけないと。気がつけば、人目も気にせず廊下を走り階段を駆け降り人があまり行かない場所を探し回っていた。