エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 あれから麻美には会った時にきちんと話すと約束し、先生が当直の今日食事の約束をしていた。
 いつものイタリアンレストランに着くと、こっちこっちと手を振っている。
 「久しぶりだね優茉!会いたかった〜」
 「私も!なかなか会えなかったね」
 「今日はじっくり話聞かせてもらうからね!」
 「わ、私の事より麻美だよ。本当におめでとう!詳しく聞かせてよ?」
 「ありがとう!でも、私の事は追々ね。先に優茉の話!あれからずっと気になってたんだから!」

 本当は仮の婚約者だとバレちゃいけないから、誰にも話さないつもりだったけれど...正直今の状況に自分でも戸惑っているし、なにより誰かに聞いて欲しかった。
 彼との出会いから全てを話すと、麻美は箸を置き食べる事を完全に忘れている。
 「信じられない...あんたがそんな思い切った事してるなんて...。その先生本当に悪い人じゃないよね?優茉、何か騙されている訳じゃないよね⁈」
 「お見合いを断る為の演技だとは思うけど、騙されている訳じゃないと...」
 「でも優茉は好きになっちゃったんでしょ?」
 ...今まで考えないようにしていた所を、麻美が核心をついてくる。
 「うーん...どうなんだろう。純粋に先生の為に何かしてあげたいって気持ちはあるけど...。それに、もし好きになっちゃったら後悔する事は分かっているから考えない様にしてる」
 「でもさ、話を聞く限りその先生も優茉の事を好きだと思うけど?そうじゃなきゃわざわざ休みを一日使ったり、誰も見てない家でまでそんな演技しないでしょ?何とも思っていない相手にそんな思わせぶりな事して本気にされたら困る訳だし」
 「でも真面目な人だし、そういう雰囲気を作り上げようとしているって事も...」
 「そこまでは私もわからないけどさ、優茉は自分の気持ちを抑え込まなくてもいいと思うけどな」
 「でも...もしも本当の関係になれたとしても、彼は大病院の御曹司なんだよ?私なんかじゃ釣り合わないし、結局最終的な結果は同じだと思う...」
 「はぁー。あんたはどうしていつも始める前から終わりを決めつけるの?優茉、前に幸せを感じると怖くなるって言っていたでしょ?私この前雑誌で読んだんだけど、それって幸福恐怖症って言うみたいよ」
 「幸福、恐怖症...?」
 「そう。優茉はさ、ずっと心の中にお母さんへの罪悪感があるじゃない?自分のせいでって思ってるんでしょ?」
 「うん...だって七回忌の時に聞いちゃったの。私を守ったせいでお母さんは亡くなったって親戚の人が話してた。だから、私だけ幸せになるのはいけない事だって思っていたのかも...」
 「でもさ、もしも私がお母さんの立場だったら、優茉を守れてよかったって思うけどな。それに、自分がそばに居てあげられない分誰かと幸せになって欲しいってそう願うと思う。だからもうその考えはやめてもいいんじゃない?自分が幸せになる努力をしてみたら?」
 「幸せになる、努力...」
 「優茉からアクション起こしてみなよ!あんたは昔から何にもしなくてもモテてたんだから、本気になったらその御曹司先生も優茉に落ちちゃうんじゃないかなー!」
 いつもポジティブな麻美には、私にはない考えや感情を教えてもらう事が多い。
 私からアクションを、か...。