「では以上です。今日もよろしくお願いします」
 朝の申し送りが終わると看護師長の声で解散となり、それぞれの持ち場へと散らばっていく。
 午前中の業務は退院手続きに付随する業務がメインとなり、その隙間でカルテ整理や器材の準備など多岐に渡る業務を教わりながら行なっていると、あっという間にお昼の時間を迎えた。

 「今日は落ち着いているから一緒にお昼行きましょう!優茉ちゃんは今日もお弁当?」
 「はい、天宮さんは?」
 「今日は寝坊しちゃって作る時間なくって。だから食堂行っていい?」
 二人揃って職員用の食堂へ行き窓際の席に座ると、天宮さんは日替わり定食、私はお弁当を広げて食べ始めた。
 「いつも思うけど毎日お弁当作ってえらいよね。優茉ちゃんはいい奥さんになるわ」
 「いえ、夕飯の残りを詰めているだけですから」
 「私なんて未だにレシピサイト検索して簡単な物ばっかり。時間がある時は旦那に任せちゃうわ、その方が美味しいしね」
 天宮さんは以前呼吸器内科でクラークをされていて、そこで出会ったドクターの旦那様と去年ご結婚されたそう。
 「ふふっ、本当に素敵な旦那様ですね」
 「優茉ちゃんは?彼氏いないの?絶対モテるでしょ」
 「いえ、全くそんな事はありませんし彼氏もいません」
 「へぇ!宮野さんフリーなんだ!彼氏いると思ってた」そう言いながら同じテーブルに座って親子丼を食べ始めたのは、同じ脳外の男性看護師である風見さん。
 「風見くん、せっかく女子トークしてたのに!席ならまだ向こうも空いてるわよー」
 「いいじゃないですかー、僕も混ぜてくださいよ女子トーク!」
 彼は私と同い年で二年前から脳外で働いているそう。ふわっとした微かに茶色い髪の毛に、くりっとした大きな瞳。女の私から見ても可愛いと思う甘い顔立ちの風見さんは、仕事も一生懸命で看護師さん達だけでなく先生達にも可愛がられている。
 「で?宮野さん本当に彼氏いないの?」
 「しばらくそうゆう人はいません」
 「じゃあずっと一途に想い続けてる人がいるとか?」
 「いえ...ただ、私には恋愛は向いていないようなので」
 過去に何度かお付き合いはした事はあるけれど、幸せだなぁと感じるのと比例してなぜか漠然とした恐怖感が増していきいつも上手くいかなかった。