柊哉side
院長が返事をすると、ゆっくりと開いた扉の先に立っていたのは... 先ほど頭に浮かんだばかりの彼女だった。
一礼してから顔を上げた彼女は、院長の他に俺がいる事を確認すると目を見開き驚いた表情を見せた。そしてこの険悪な空気に「お、お話し中にすみません。失礼しました」とすぐに踵を返そうとする。
「構わないよ、要件は?」院長にそう言われ再び向き直った彼女は「あの、これを。先日頼まれていた書類をお持ちしました」と遠慮がちにこちらに近づく。
黙って二人のやりとりを眺めていた俺は、ある事を思いついた。...突拍子もないが、深く考えている暇もない。今の苛立ちと勢いにまかせ、たった今思いついたばかりの計画を咄嗟に口に出した。
「父さん、彼女が紹介したかった人です」と立ち上がり寄り添うように肩を抱く。
「へっ⁈」
完全に固まっている彼女の瞳を覗き、どうにか話を合わせてくれるよう懇願の思いで数秒見つめる。
「彼女は脳外病棟でクラークとして働いている宮野優茉さん。俺は彼女以外の女性と結婚する気はありません」
言葉を詰まらせている院長に「では、そういう事なので。仕事に戻ります」そう言って彼女の背中に手を添えて出口の方へと促した。
「あ、あの...?今のは...?」
「訳は後で話すから、とにかくついて来てほしい」とまだ院長室の前なので耳元に小声で言いながら背中を軽く押し、医局の奥にある小さな会議室へと連れて来た。
「驚かせてごめん、あの場で話を合わせてくれてありがとう。実は...」と事の次第を説明すると「そういう事だったんですね」と落ち着きを取り戻した彼女がお弁当を食べながら相槌をうつ。
「俺があんな風に言ったから、もしかしたら君の所に院長が何か言いに来るかもしれない。迷惑をかけたら申し訳ない」
「いえ、私は大丈夫ですけど...その場合は何とお答えしたら良いのでしょう...?」
「そうだな...」
俺はこの突拍子もない計画を、彼女に話すか迷っていた。黙って考え込んでいると、彼女は箸を置いてこちらを真っ直ぐに見ている。
「あの、私で良ければどんな事でも協力します。以前助けて頂いた恩返し...になるとは思っていませんけど」そう控えめな笑顔で言う彼女がいじらしくて可愛くて...たまらなかった。
「...じゃあ、一つ頼みたい事があるんだ」そう言うと、にこっと笑って「はい!」と少し嬉しそうに答える。
「二ヶ月後のお見合いを断るために、婚約者のふりをしてくれないか?」
「...え⁈ えっと...それはどういう...?」
「おそらく院長は、秘書を使って俺達を探り始めると思う。そして、少し経ったら三人で会おうと言ってくるだろう。だからそこで違和感を持たれないようにしないといけない」
「な、なるほど...」
「その為には二人の空気感を自然な物に見せないとバレてしまうと思う」
「そ、そうですね...。でも、どうしたら...?」
「俺はオペに入る事も多いし、休みもあまり取れないと思う。この約一ヶ月もほとんど君と接点はなかっただろう?」
「は、はい」
「だから今のままでは無理だと思うんだ」
戸惑いながらも相槌を打つ彼女に、俺は決定打を放つ。
「それまでの間、俺の家で一緒に暮らしてほしい」
院長が返事をすると、ゆっくりと開いた扉の先に立っていたのは... 先ほど頭に浮かんだばかりの彼女だった。
一礼してから顔を上げた彼女は、院長の他に俺がいる事を確認すると目を見開き驚いた表情を見せた。そしてこの険悪な空気に「お、お話し中にすみません。失礼しました」とすぐに踵を返そうとする。
「構わないよ、要件は?」院長にそう言われ再び向き直った彼女は「あの、これを。先日頼まれていた書類をお持ちしました」と遠慮がちにこちらに近づく。
黙って二人のやりとりを眺めていた俺は、ある事を思いついた。...突拍子もないが、深く考えている暇もない。今の苛立ちと勢いにまかせ、たった今思いついたばかりの計画を咄嗟に口に出した。
「父さん、彼女が紹介したかった人です」と立ち上がり寄り添うように肩を抱く。
「へっ⁈」
完全に固まっている彼女の瞳を覗き、どうにか話を合わせてくれるよう懇願の思いで数秒見つめる。
「彼女は脳外病棟でクラークとして働いている宮野優茉さん。俺は彼女以外の女性と結婚する気はありません」
言葉を詰まらせている院長に「では、そういう事なので。仕事に戻ります」そう言って彼女の背中に手を添えて出口の方へと促した。
「あ、あの...?今のは...?」
「訳は後で話すから、とにかくついて来てほしい」とまだ院長室の前なので耳元に小声で言いながら背中を軽く押し、医局の奥にある小さな会議室へと連れて来た。
「驚かせてごめん、あの場で話を合わせてくれてありがとう。実は...」と事の次第を説明すると「そういう事だったんですね」と落ち着きを取り戻した彼女がお弁当を食べながら相槌をうつ。
「俺があんな風に言ったから、もしかしたら君の所に院長が何か言いに来るかもしれない。迷惑をかけたら申し訳ない」
「いえ、私は大丈夫ですけど...その場合は何とお答えしたら良いのでしょう...?」
「そうだな...」
俺はこの突拍子もない計画を、彼女に話すか迷っていた。黙って考え込んでいると、彼女は箸を置いてこちらを真っ直ぐに見ている。
「あの、私で良ければどんな事でも協力します。以前助けて頂いた恩返し...になるとは思っていませんけど」そう控えめな笑顔で言う彼女がいじらしくて可愛くて...たまらなかった。
「...じゃあ、一つ頼みたい事があるんだ」そう言うと、にこっと笑って「はい!」と少し嬉しそうに答える。
「二ヶ月後のお見合いを断るために、婚約者のふりをしてくれないか?」
「...え⁈ えっと...それはどういう...?」
「おそらく院長は、秘書を使って俺達を探り始めると思う。そして、少し経ったら三人で会おうと言ってくるだろう。だからそこで違和感を持たれないようにしないといけない」
「な、なるほど...」
「その為には二人の空気感を自然な物に見せないとバレてしまうと思う」
「そ、そうですね...。でも、どうしたら...?」
「俺はオペに入る事も多いし、休みもあまり取れないと思う。この約一ヶ月もほとんど君と接点はなかっただろう?」
「は、はい」
「だから今のままでは無理だと思うんだ」
戸惑いながらも相槌を打つ彼女に、俺は決定打を放つ。
「それまでの間、俺の家で一緒に暮らしてほしい」
