The previous night of the world revolution5~R.D.~

殿下…殿下か。

今日で、その呼称ともお別れだな。

「僕は、もう殿下じゃありませんよ」

名字もないので。

強いて言うなら、単なるルーチェスってところか?

「…」

しかし、レスリーは答えなかった。

…仕方ないか。

「…あなたには、申し訳ないことをしました」

レスリーは僕が生まれたときからずっと、僕がベルガモット王家の名に恥じない皇太子となるよう、守り、教え、導いてくれた人だ。

それなのに僕は、それらの全ての期待に反して。

挙げ句王権を放棄して、出ていこうとしている。

彼の言うことなんて、一つも聞かなかった。

一つだって、かけてくれた期待に応えることが出来なかった。

親不孝者と罵られることは、どうでも良い。

でも、レスリー不孝者だと言われたら、心が痛む。

「…僕は、少しもあなたに報いることが出来ず…」

「…いいえ、もう良いのです。殿下」

レスリーは、ゆっくりと首を横に振った。

「むしろ私は、誇らしく思っているのです。そこまでして、こうまでして…ご自分の生き方をご自分で選び、そして掴み取った殿下のことを」

「…レスリー…」

「他人の言うまま、流されるまま生きるより、ずっと大変だったことでしょう。よくぞ為し遂げられました。レスリーは、そんな殿下を誇りに思います」

…泣かせるようなこと、言わないでくれよ。

最後の最後ってときになって。

「あの小さかった殿下が…。本当に、ご立派になられました」

「…ありがとうございました、今まで、ずっと」

「何処に行っても、このレスリーは、殿下の味方です。いつでも殿下の幸福を願っております。何かあれば、この老骨を頼ってください」

「…元気で」

「殿下も、お元気で。そして…どうか、お幸せに」

そう言って、レスリーはいつもの通り、深々とお辞儀した。