殿下…殿下か。
今日で、その呼称ともお別れだな。
「僕は、もう殿下じゃありませんよ」
名字もないので。
強いて言うなら、単なるルーチェスってところか?
「…」
しかし、レスリーは答えなかった。
…仕方ないか。
「…あなたには、申し訳ないことをしました」
レスリーは僕が生まれたときからずっと、僕がベルガモット王家の名に恥じない皇太子となるよう、守り、教え、導いてくれた人だ。
それなのに僕は、それらの全ての期待に反して。
挙げ句王権を放棄して、出ていこうとしている。
彼の言うことなんて、一つも聞かなかった。
一つだって、かけてくれた期待に応えることが出来なかった。
親不孝者と罵られることは、どうでも良い。
でも、レスリー不孝者だと言われたら、心が痛む。
「…僕は、少しもあなたに報いることが出来ず…」
「…いいえ、もう良いのです。殿下」
レスリーは、ゆっくりと首を横に振った。
「むしろ私は、誇らしく思っているのです。そこまでして、こうまでして…ご自分の生き方をご自分で選び、そして掴み取った殿下のことを」
「…レスリー…」
「他人の言うまま、流されるまま生きるより、ずっと大変だったことでしょう。よくぞ為し遂げられました。レスリーは、そんな殿下を誇りに思います」
…泣かせるようなこと、言わないでくれよ。
最後の最後ってときになって。
「あの小さかった殿下が…。本当に、ご立派になられました」
「…ありがとうございました、今まで、ずっと」
「何処に行っても、このレスリーは、殿下の味方です。いつでも殿下の幸福を願っております。何かあれば、この老骨を頼ってください」
「…元気で」
「殿下も、お元気で。そして…どうか、お幸せに」
そう言って、レスリーはいつもの通り、深々とお辞儀した。
今日で、その呼称ともお別れだな。
「僕は、もう殿下じゃありませんよ」
名字もないので。
強いて言うなら、単なるルーチェスってところか?
「…」
しかし、レスリーは答えなかった。
…仕方ないか。
「…あなたには、申し訳ないことをしました」
レスリーは僕が生まれたときからずっと、僕がベルガモット王家の名に恥じない皇太子となるよう、守り、教え、導いてくれた人だ。
それなのに僕は、それらの全ての期待に反して。
挙げ句王権を放棄して、出ていこうとしている。
彼の言うことなんて、一つも聞かなかった。
一つだって、かけてくれた期待に応えることが出来なかった。
親不孝者と罵られることは、どうでも良い。
でも、レスリー不孝者だと言われたら、心が痛む。
「…僕は、少しもあなたに報いることが出来ず…」
「…いいえ、もう良いのです。殿下」
レスリーは、ゆっくりと首を横に振った。
「むしろ私は、誇らしく思っているのです。そこまでして、こうまでして…ご自分の生き方をご自分で選び、そして掴み取った殿下のことを」
「…レスリー…」
「他人の言うまま、流されるまま生きるより、ずっと大変だったことでしょう。よくぞ為し遂げられました。レスリーは、そんな殿下を誇りに思います」
…泣かせるようなこと、言わないでくれよ。
最後の最後ってときになって。
「あの小さかった殿下が…。本当に、ご立派になられました」
「…ありがとうございました、今まで、ずっと」
「何処に行っても、このレスリーは、殿下の味方です。いつでも殿下の幸福を願っております。何かあれば、この老骨を頼ってください」
「…元気で」
「殿下も、お元気で。そして…どうか、お幸せに」
そう言って、レスリーはいつもの通り、深々とお辞儀した。


