華弦に付き添われて入ってきたのは、狐面で顔を隠した青年であった。
ルリシヤに怪我を負わせたという、例の両剣は持っていない。
お面で顔は見えないけど、こんな見た目の知り合いに覚えはないのだが…。
「こんにちは。あなたが、俺を訪ねてきたという方ですね?」
「はい。初めまして…と言いたいところですが、実は初めましてではないんですよね」
…何?
やっぱり…何処かで会ったことが?
「俺には、狐面をつけた知り合いはいないんですけどねぇ」
「まぁ、そうですね。僕もあなたと以前会ったときは、こんなお面はつけてませんでしたし」
「以前…ですか。いつ会いましたっけ?俺達」
最近でないのは確かだと思うが。
「そうですね…。あなたがまだ、ウィスタリア卿だったとき、ですね」
「!」
…久々に聞いたよ。
その、呪わしい名前を。
「…お前…」
ルルシーは俺を庇うように前に出て、敵意の眼差しで彼を睨み付けた。
やはり、そうか。
俺がまだ…あちら側の世界にいた頃の…。
「覚えてないのも無理はないです。会ったことはありますけど、直接言葉を交わしたのは、ほんの数回もありませんから」
「…ふーん…」
じゃあ覚えてないだろうね。
「で?勿体ぶるだけ勿体ぶって?結局素顔と名前は明かさないおつもりで?」
だとしたら、今すぐそのお面、ひっぺがしてやろうと思うのだが。
しかし。
「あぁ、済みません。つい、興奮して…。僕、あなたに憧れてたんです」
「…俺に?」
「えぇ。帝国騎士団に裏切られながらも、絶望の淵から這い上がり、復讐に身を染めて、数々の困難を文字通り切り裂いて突き進む、黒き死神…。こんなに素敵なことってあります?」
「ないですね」
即答である。
俺もそう思う。
で、あんたは俺のそういう過去を知ってると。
「俺に目をつけるとは、あなた…良い趣味してますね。あなたとは、良い酒が飲めそうです」
「僕もそう思います。あなたとは、是非立場の垣根を越えて語り合いたい。僕は、あなたのような生き方に憧れています」
俺のような…。
「…あまり、おすすめは出来ませんけどね」
死ぬほどの苦しみを、味わう覚悟があるなら…話は別だが。
「そうですか?あなたには、あなたにしか分からない苦しみがあるんでしょうね」
「…」
「…それで、僕の正体でしたね。良いですよ。あなたには、明かすつもりでしたから」
そう言って、彼は顔につけたお面に触れた。
そのお面が外れたとき、俺の目は、彼の顔に釘付けになった。
「…あなた…」
「…お久し振りですね、ウィスタリア卿。僕のこと、覚えていらっしゃいますか?」
ルリシヤに怪我を負わせたという、例の両剣は持っていない。
お面で顔は見えないけど、こんな見た目の知り合いに覚えはないのだが…。
「こんにちは。あなたが、俺を訪ねてきたという方ですね?」
「はい。初めまして…と言いたいところですが、実は初めましてではないんですよね」
…何?
やっぱり…何処かで会ったことが?
「俺には、狐面をつけた知り合いはいないんですけどねぇ」
「まぁ、そうですね。僕もあなたと以前会ったときは、こんなお面はつけてませんでしたし」
「以前…ですか。いつ会いましたっけ?俺達」
最近でないのは確かだと思うが。
「そうですね…。あなたがまだ、ウィスタリア卿だったとき、ですね」
「!」
…久々に聞いたよ。
その、呪わしい名前を。
「…お前…」
ルルシーは俺を庇うように前に出て、敵意の眼差しで彼を睨み付けた。
やはり、そうか。
俺がまだ…あちら側の世界にいた頃の…。
「覚えてないのも無理はないです。会ったことはありますけど、直接言葉を交わしたのは、ほんの数回もありませんから」
「…ふーん…」
じゃあ覚えてないだろうね。
「で?勿体ぶるだけ勿体ぶって?結局素顔と名前は明かさないおつもりで?」
だとしたら、今すぐそのお面、ひっぺがしてやろうと思うのだが。
しかし。
「あぁ、済みません。つい、興奮して…。僕、あなたに憧れてたんです」
「…俺に?」
「えぇ。帝国騎士団に裏切られながらも、絶望の淵から這い上がり、復讐に身を染めて、数々の困難を文字通り切り裂いて突き進む、黒き死神…。こんなに素敵なことってあります?」
「ないですね」
即答である。
俺もそう思う。
で、あんたは俺のそういう過去を知ってると。
「俺に目をつけるとは、あなた…良い趣味してますね。あなたとは、良い酒が飲めそうです」
「僕もそう思います。あなたとは、是非立場の垣根を越えて語り合いたい。僕は、あなたのような生き方に憧れています」
俺のような…。
「…あまり、おすすめは出来ませんけどね」
死ぬほどの苦しみを、味わう覚悟があるなら…話は別だが。
「そうですか?あなたには、あなたにしか分からない苦しみがあるんでしょうね」
「…」
「…それで、僕の正体でしたね。良いですよ。あなたには、明かすつもりでしたから」
そう言って、彼は顔につけたお面に触れた。
そのお面が外れたとき、俺の目は、彼の顔に釘付けになった。
「…あなた…」
「…お久し振りですね、ウィスタリア卿。僕のこと、覚えていらっしゃいますか?」


