The previous night of the world revolution5~R.D.~

華弦に付き添われて入ってきたのは、狐面で顔を隠した青年であった。

ルリシヤに怪我を負わせたという、例の両剣は持っていない。

お面で顔は見えないけど、こんな見た目の知り合いに覚えはないのだが…。

「こんにちは。あなたが、俺を訪ねてきたという方ですね?」

「はい。初めまして…と言いたいところですが、実は初めましてではないんですよね」

…何?

やっぱり…何処かで会ったことが?

「俺には、狐面をつけた知り合いはいないんですけどねぇ」

「まぁ、そうですね。僕もあなたと以前会ったときは、こんなお面はつけてませんでしたし」

「以前…ですか。いつ会いましたっけ?俺達」

最近でないのは確かだと思うが。

「そうですね…。あなたがまだ、ウィスタリア卿だったとき、ですね」

「!」

…久々に聞いたよ。

その、呪わしい名前を。

「…お前…」

ルルシーは俺を庇うように前に出て、敵意の眼差しで彼を睨み付けた。

やはり、そうか。

俺がまだ…あちら側の世界にいた頃の…。

「覚えてないのも無理はないです。会ったことはありますけど、直接言葉を交わしたのは、ほんの数回もありませんから」

「…ふーん…」

じゃあ覚えてないだろうね。

「で?勿体ぶるだけ勿体ぶって?結局素顔と名前は明かさないおつもりで?」

だとしたら、今すぐそのお面、ひっぺがしてやろうと思うのだが。

しかし。

「あぁ、済みません。つい、興奮して…。僕、あなたに憧れてたんです」

「…俺に?」

「えぇ。帝国騎士団に裏切られながらも、絶望の淵から這い上がり、復讐に身を染めて、数々の困難を文字通り切り裂いて突き進む、黒き死神…。こんなに素敵なことってあります?」

「ないですね」

即答である。

俺もそう思う。

で、あんたは俺のそういう過去を知ってると。

「俺に目をつけるとは、あなた…良い趣味してますね。あなたとは、良い酒が飲めそうです」

「僕もそう思います。あなたとは、是非立場の垣根を越えて語り合いたい。僕は、あなたのような生き方に憧れています」

俺のような…。

「…あまり、おすすめは出来ませんけどね」

死ぬほどの苦しみを、味わう覚悟があるなら…話は別だが。

「そうですか?あなたには、あなたにしか分からない苦しみがあるんでしょうね」

「…」

「…それで、僕の正体でしたね。良いですよ。あなたには、明かすつもりでしたから」

そう言って、彼は顔につけたお面に触れた。

そのお面が外れたとき、俺の目は、彼の顔に釘付けになった。

「…あなた…」

「…お久し振りですね、ウィスタリア卿。僕のこと、覚えていらっしゃいますか?」