「どうするのです、家庭教師達が来て、待っていたんですよ!殿下がお戻りになるのを!」
「はぁ…。それは済みません…」
「この埋め合わせを、いつなさるつもりです!明日も明後日も、授業はみっちり入っているんですよ!」
…。
「…もう良いんじゃないですか?勉強しなくても」
「…は?」
何、その鳩が豆鉄砲の顔。
そんな顔するようなこと、言ったか?
「僕、もう20越えてるんですよ?普通なら、大学も卒業してる歳じゃないですか。いつまで勉強すれば良いんですか?」
「い、いつまでと仰られても…」
義務教育なら分かるよ?
最低限の教養は、確かに必要だろう。それは分かる。
でも。
「バイオリンだの、古文学だの…趣味の範囲じゃないですか」
「…」
「貿易学はちょっと必要かもしれませんけど。でもそれだって、今のことをいくら勉強したって、いつ何がどう転ぶか分からない。昨今でも、『まるで何者かに図られたかのように』いきなりシェルドニアとの大規模貿易が始まって…」
「…」
「おまけについ最近まで、『天の光教』なんて訳の分からない宗教団体に、王室そのものの存在まで脅かされてたじゃないですか。そんな状況で、大人しく部屋にこもって勉強することに、何の意味が…」
エロ本でも漁ってる方が、余程有意義じゃないか…と。
思った、そのとき。
レスリーが、爆発した。
「へっ…屁理屈を、仰るものではありません!!」
済みません。
本当は自分でも、ちょっと屁理屈だなって思ってました。
でもだって、バイオリンのレッスンなんて、つまらないことこの上ないから。
「良いですか!殿下は!お二人の姉君と違い、留学期間も短く、年頃だというのに、帝立大学にもご入学されませんでした!何故だと思いますか!?」
「僕が大学なんて行きたくないと言ったのと、行かなくても充分優秀だったからです」
「その通りです!よくお分かりのようで!」
おまけに、僕が王位継承権下っ端の三番目だからだ。
あのときは、長姉ローゼリアの治世が安定していて、僕の出番があるとは思われていなかった。
だから、海外留学も僅か二年ほどで済んだ。
国内の帝立大学にも、行かずに済んだ。
「今からでも遅くはありません!海外留学とまでは言いません。帝立大学に入学を…」
「それはもう何度も話したでしょう。嫌です」
「でしたらせめて、家庭教師の授業くらいは真面目に受けて頂きたいものです!」
うーん。
レスリーが正論なのは分かってるんだが。
「僕、アウトドア派なんですよ。机に向かって勉強してるより、身体を動かした方が…」
「でしたら、帝国騎士団にお入りください!」
「嫌です」
この議論も、もう何回もした。
何十回、何百回とした。
王族が帝国騎士団に入団するのは、歴史上、そう珍しいことではない。
特に、王位を継げない三男や四男くらいの皇子は、せめて武の道で身を立てたいとばかりに、積極的に帝国騎士団に入団していた。
だから、武に優れる僕は、王位を継ぐつもりがないのなら、ふらふらと放蕩するよりも帝国騎士団に入るように、何度も言われてきた。
かつては、僕も…そうしても良いかもしれないと思っていた。
でも、今は嫌だ。
「何故です!名誉ある帝国騎士団に入団すれば、殿下のお名前にも箔が…」
「つかなくて良いです」
帝国騎士団で名を立てるなど、冗談じゃない。
「名誉だの、権威だの…そんな下らないものの為に、未来ある仲間を裏切るような集団に、僕は入るつもりはない」
あの事件が明らかになったとき。
もう何年も前になるが。
あのとき、僕はまだ十代の半ばだった。
あまりのショックと怒りに、僕は帝国騎士団長のもとに、直訴しに行ったのを覚えている。
「はぁ…。それは済みません…」
「この埋め合わせを、いつなさるつもりです!明日も明後日も、授業はみっちり入っているんですよ!」
…。
「…もう良いんじゃないですか?勉強しなくても」
「…は?」
何、その鳩が豆鉄砲の顔。
そんな顔するようなこと、言ったか?
「僕、もう20越えてるんですよ?普通なら、大学も卒業してる歳じゃないですか。いつまで勉強すれば良いんですか?」
「い、いつまでと仰られても…」
義務教育なら分かるよ?
最低限の教養は、確かに必要だろう。それは分かる。
でも。
「バイオリンだの、古文学だの…趣味の範囲じゃないですか」
「…」
「貿易学はちょっと必要かもしれませんけど。でもそれだって、今のことをいくら勉強したって、いつ何がどう転ぶか分からない。昨今でも、『まるで何者かに図られたかのように』いきなりシェルドニアとの大規模貿易が始まって…」
「…」
「おまけについ最近まで、『天の光教』なんて訳の分からない宗教団体に、王室そのものの存在まで脅かされてたじゃないですか。そんな状況で、大人しく部屋にこもって勉強することに、何の意味が…」
エロ本でも漁ってる方が、余程有意義じゃないか…と。
思った、そのとき。
レスリーが、爆発した。
「へっ…屁理屈を、仰るものではありません!!」
済みません。
本当は自分でも、ちょっと屁理屈だなって思ってました。
でもだって、バイオリンのレッスンなんて、つまらないことこの上ないから。
「良いですか!殿下は!お二人の姉君と違い、留学期間も短く、年頃だというのに、帝立大学にもご入学されませんでした!何故だと思いますか!?」
「僕が大学なんて行きたくないと言ったのと、行かなくても充分優秀だったからです」
「その通りです!よくお分かりのようで!」
おまけに、僕が王位継承権下っ端の三番目だからだ。
あのときは、長姉ローゼリアの治世が安定していて、僕の出番があるとは思われていなかった。
だから、海外留学も僅か二年ほどで済んだ。
国内の帝立大学にも、行かずに済んだ。
「今からでも遅くはありません!海外留学とまでは言いません。帝立大学に入学を…」
「それはもう何度も話したでしょう。嫌です」
「でしたらせめて、家庭教師の授業くらいは真面目に受けて頂きたいものです!」
うーん。
レスリーが正論なのは分かってるんだが。
「僕、アウトドア派なんですよ。机に向かって勉強してるより、身体を動かした方が…」
「でしたら、帝国騎士団にお入りください!」
「嫌です」
この議論も、もう何回もした。
何十回、何百回とした。
王族が帝国騎士団に入団するのは、歴史上、そう珍しいことではない。
特に、王位を継げない三男や四男くらいの皇子は、せめて武の道で身を立てたいとばかりに、積極的に帝国騎士団に入団していた。
だから、武に優れる僕は、王位を継ぐつもりがないのなら、ふらふらと放蕩するよりも帝国騎士団に入るように、何度も言われてきた。
かつては、僕も…そうしても良いかもしれないと思っていた。
でも、今は嫌だ。
「何故です!名誉ある帝国騎士団に入団すれば、殿下のお名前にも箔が…」
「つかなくて良いです」
帝国騎士団で名を立てるなど、冗談じゃない。
「名誉だの、権威だの…そんな下らないものの為に、未来ある仲間を裏切るような集団に、僕は入るつもりはない」
あの事件が明らかになったとき。
もう何年も前になるが。
あのとき、僕はまだ十代の半ばだった。
あまりのショックと怒りに、僕は帝国騎士団長のもとに、直訴しに行ったのを覚えている。


