The previous night of the world revolution5~R.D.~

あ、ヤバい。

これ、本気で怒ってるときのレスリーだ。

と、気づいたときにはもう遅い。

「で、で、殿下っ…。な、なんということを…」

「レスリー、あの、ちょっと落ち着、」

「皇太子ともあろう方が…なんということをしていらっしゃるのですかっ!」

あっ、駄目だった。

完全に怒らせた。

それもそのはず。

僕の着ている服は、いつも王室御用達の仕立て屋がわざわざ向こうから来て、わざわざメジャーを使ってサイズを測り、一からオーダーメイドで仕立ててくれる。

当然、使われる布は一般の手芸店ではお目にかかることも出来ないほど、上質なものである。

食事だってそう。

僕の食生活は、専門の栄養士が、塩分濃度からビタミン量まで、ミリ単位で計算し、完璧に管理している。

添加物たっぷり、外国産の食材も遠慮なく使うファミレスのハンバーグなんて、一食でも挟んでみろ。

栄養士は顔面蒼白。この先数週間、栄養士はこの帳尻合わせに苦労することだろう。

エロ本については…まぁ、許容範囲じゃないか?

一応僕も、年ごろの男子な訳だから。

と、思ったのは僕だけだったようで。

「皇太子ともあろう方が!大衆の衣料品店など!ファミレスなど!えっ、え…エロ本など!言語道断です!」

「…エロ本も駄目なんですか…?」

じゃあ、僕は滾った欲望を何処で発散すれば良いのか。

むしろ身体に悪くないか?

「駄目に決まっているでしょう!じょっ…女子高生を、痴漢など!」

あぁ、ジャンルの問題か。

痴漢が駄目なのであって、エロ本は良いと。

「でも、意外とそんなノーマルなエロ本って、ないですよ?大抵、爆乳の女教師を生徒達が襲ったり、美人OLを取り引き先のおっさん達が襲ったり、何も知らないいたいけな幼女を、キモオタなおっさんが開花させたり…」

えぇっと、他にどんなシチュエーションがあったっけ。

「そ、そういう話をしているのではありません!そのようないかがわしいものを、殿下が所持していることが問題なのです!」

じゃあ僕は、何で抜けば良いんだ。

「痴漢もののエロ本が低俗だって言うなら、高俗なエロ本を紹介してくださいよ」

「そ、そのようなものはありません!良いですか、今後決して!絶対に!そのような店には出入りしてはなりません!」

「…はいはい…」

「返事は一回です!」

「…はーい…」

「伸ばさない!」

「…はぁ…」

一体何度、こんな不毛なやり取りをしたことか。

懲りない僕が悪いのだろうが、いい加減疲れてきた。

しかし。

「それに!今日の午後は、バイオリンの授業と、ルティス古文学、貿易学の授業があると伝えておいたでしょう!」

あー…。そうだっけ?

朝、そんなことを聞いたような…聞いてないような…。聞いたな。

でも、頭の中は『青薔薇連合会』のことしかなくて、全然覚えてなかった。