The previous night of the world revolution5~R.D.~

レスリーの説教は、いつもの通りであった。

「皇子ともあろう方が、漫画などという低俗なものを読むなど!断じて許されませんぞ!」

…あなたは今、全ての漫画家と、漫画を愛する国民達を敵に回した。

活字の本なら低俗じゃないと?

活字だってエロ本くらいあるよな?

「しかもこんな…しゅ、衆道ものの本など!言語道断です!」

「良いじゃないですか、別に…。今時、同性愛なんて普通でしょう?」

かのシェルドニア王国では、同性結婚が認められていると言うし。

ルティス帝国でも、早急に同性婚を認めるべきだと、僕は思う。

同性愛を批難するなんて、実に前時代的だ。

「大衆はそうかもしれませんが、あなた様は皇子なのですよ!」

「はい」

「皇子であるあなたは、世継ぎを残さなければならない身。同性同士で、世継ぎが産めますか」

…産めませんね。

何処かから拾ってくるしかない。

「だ、大体その…殿下は」

「はい?」

「お、男の方が…お好きなのですか?」

…凄い質問だ。

「僕は性別でパートナーを選びはしません。相手の人間性で選びます。そこに性別はどうでも良い」

「良くありません!」

一喝されてしまった。

何故駄目だ。

「全く、このような本ばかり読んでいるから、性的志向が歪むのです。良いですか、今後、このようないかがわしい本を読むことは、一切禁じます」

酷い言われようだ。

本に罪はないし、その本を読んで楽しんでる人は大勢いるはずだ。

それを、いかがわしいなどと。

確かにいかがわしいけれども。

「そもそも、何処からこのような本を入手したのです」

「それは…」

勿論、僕が普段出入りを許されている王宮書庫には、そのような本はない。

だから…。

「…さては、また王宮を抜け出しましたな?」

「…」

「…はぁぁ…」

僕の沈黙を、肯定と理解したのか。

レスリーは、深い溜め息をついた。

「…良いですか、皇太子殿下。もう幾度も幾度も、口を酸っぱくして申し上げたことですが」

「…はい」

「あなたは今後、このルティス帝国を背負って立つかもしれないお方。その責務を、分かっておいでですか」

「…」

…一応は。

「一般帝国民ならば、遊んだり、怠けたり、いかがわしい本にうつつを抜かすことも許されるでしょう。しかし、国民の血税によって生かされ、高度な教育を受け、生まれながらに人々にかしずかれる立場であるあなたは、それ相応の態度を取らなければなりません」

「…」

「あなたは特別なお方なのです。特別なお方は、特別な生き方をしなければならない。一般市民と同じ生き方を望むなど、決して許されないのですよ」

「…分かってますよ」

そりゃそうだろう。

僕だって、それは何回も考えた。

嫌と言うほど聞いた。

「分かっていらっしゃると言うなら、どうか心を入れ替えください。王宮を抜け出すのも、このような本を読むのもおやめください。威厳を。姉君のような、威厳をお持ちください」

「…」

「良いですね」

レスリーはそう言い放ち、僕の返事を待たず、お宝BLコミックを持って、部屋を出ていった。

…威厳、威厳ね。

僕は今一度、安楽椅子に横たわって、天を見上げた。

「…この国の王室に、威厳なんてあるもんか」

僕は誰にも聞こえないように、そう呟いた。

レスリーがこれを聞いたら、また怒髪天ついて怒るに決まってる。

でも、僕はそう思ってる。