フューニャ相手に、嘘をつくというのがどういうことか。
分からない俺ではない。
愚かなり、俺。
それなのに。
「で、でも…。あの、後方任務だったから…。あくまで後方で…陣地を固めていただけで」
何とか被害を最小限に抑えようと、俺は嘘に嘘を重ねてしまった。
本当は、四、五人と銃撃戦になった。
しかし。
「…ふんふん、すんすん…」
フューニャは、俺の身体の隅々まで嗅ぎ回した。
な、何を嗅いでるんだ?
「…匂う」
「え?」
「匂います…。血の匂いです」
!?
「そ、そんな馬鹿な…。ちゃんとシャワーを浴びて…」
「シャワーくらいで、私の鼻を誤魔化せると思ったら、大きな間違いです」
…マジで?
「何なら、あなたが買ってきたケーキの種類も匂いで分かります。チーズケーキ、チョコケーキ、ラズベリータルト、ザッハトルテですね?」
「…!」
…全部当たってる。
な、なんてことだ…。俺は…うちの嫁の鼻を見くびっていたということなのか…。
「…何か、言いたいことは?」
「…誠に、申し訳ありませんでした」
土下座である。
もうこうするしかない。
アシスファルト出張と偽って、危険な戦場に飛び込み。
おまけに、その嘘がバレているにも関わらず、更に嘘を重ね。
ケーキごときでご機嫌取りすれば良いやなんて、簡単に考えていた。
俺は嘘つきの最低な男です。はい。
「…」
フューニャの、俺を見る目。
まさに、汚物を見る目だ。
「全く、私に黙ってそんな危険な場所に…。そうと知っていれば、最新作の『骨と臓物の赤人形』を持たせたのに…」
何ですか?その人形。
名前からして、えげつないものであることは分かる。
「あまつさえ妻を騙し、挙げ句ケーキで誤魔化して、明日はデートに行こう、なんて…。面の皮が厚いとはこのことです」
誠に、仰る通りでございます。
言い訳のしようがありません。
「ふ、フューニャ…。ごめんなさい…」
「残念でしたね。私は明日、お姉ちゃんと出掛ける約束をしてるんです」
「!」
な、何だって?
「で、出掛けるって…何処に…」
「ショッピングです。嘘つきの夫と違って、私は疚しいことなんて何もありませんからね。何でも正直に言いますよ」
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
「フューニャに…心配をかけたくなくて…」
「…」
「ご、ごめ…」
「…悪いですが、私は寝ます。夕飯は作ってあるので、勝手に食べてください。食器はそのままで良いですよ。あなたに洗わせると、うっかり割られかねません」
「…!」
フューニャは冷たくそう言い放ち、俺をスルーして、一人でさっさと寝室に入ってしまった。
…見捨てられた、俺とケーキ。
俺は震えながら、半泣きでフューニャの作っておいてくれた夕飯を食べた。
相変わらず美味しかったけど、でも何故だろう。なんか、ちょっとしょっぱい気がした。
目から汁が出ていたせいかもしれない。
分からない俺ではない。
愚かなり、俺。
それなのに。
「で、でも…。あの、後方任務だったから…。あくまで後方で…陣地を固めていただけで」
何とか被害を最小限に抑えようと、俺は嘘に嘘を重ねてしまった。
本当は、四、五人と銃撃戦になった。
しかし。
「…ふんふん、すんすん…」
フューニャは、俺の身体の隅々まで嗅ぎ回した。
な、何を嗅いでるんだ?
「…匂う」
「え?」
「匂います…。血の匂いです」
!?
「そ、そんな馬鹿な…。ちゃんとシャワーを浴びて…」
「シャワーくらいで、私の鼻を誤魔化せると思ったら、大きな間違いです」
…マジで?
「何なら、あなたが買ってきたケーキの種類も匂いで分かります。チーズケーキ、チョコケーキ、ラズベリータルト、ザッハトルテですね?」
「…!」
…全部当たってる。
な、なんてことだ…。俺は…うちの嫁の鼻を見くびっていたということなのか…。
「…何か、言いたいことは?」
「…誠に、申し訳ありませんでした」
土下座である。
もうこうするしかない。
アシスファルト出張と偽って、危険な戦場に飛び込み。
おまけに、その嘘がバレているにも関わらず、更に嘘を重ね。
ケーキごときでご機嫌取りすれば良いやなんて、簡単に考えていた。
俺は嘘つきの最低な男です。はい。
「…」
フューニャの、俺を見る目。
まさに、汚物を見る目だ。
「全く、私に黙ってそんな危険な場所に…。そうと知っていれば、最新作の『骨と臓物の赤人形』を持たせたのに…」
何ですか?その人形。
名前からして、えげつないものであることは分かる。
「あまつさえ妻を騙し、挙げ句ケーキで誤魔化して、明日はデートに行こう、なんて…。面の皮が厚いとはこのことです」
誠に、仰る通りでございます。
言い訳のしようがありません。
「ふ、フューニャ…。ごめんなさい…」
「残念でしたね。私は明日、お姉ちゃんと出掛ける約束をしてるんです」
「!」
な、何だって?
「で、出掛けるって…何処に…」
「ショッピングです。嘘つきの夫と違って、私は疚しいことなんて何もありませんからね。何でも正直に言いますよ」
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
「フューニャに…心配をかけたくなくて…」
「…」
「ご、ごめ…」
「…悪いですが、私は寝ます。夕飯は作ってあるので、勝手に食べてください。食器はそのままで良いですよ。あなたに洗わせると、うっかり割られかねません」
「…!」
フューニャは冷たくそう言い放ち、俺をスルーして、一人でさっさと寝室に入ってしまった。
…見捨てられた、俺とケーキ。
俺は震えながら、半泣きでフューニャの作っておいてくれた夕飯を食べた。
相変わらず美味しかったけど、でも何故だろう。なんか、ちょっとしょっぱい気がした。
目から汁が出ていたせいかもしれない。


