The previous night of the world revolution5~R.D.~

フューニャ相手に、嘘をつくというのがどういうことか。

分からない俺ではない。

愚かなり、俺。

それなのに。

「で、でも…。あの、後方任務だったから…。あくまで後方で…陣地を固めていただけで」

何とか被害を最小限に抑えようと、俺は嘘に嘘を重ねてしまった。

本当は、四、五人と銃撃戦になった。

しかし。

「…ふんふん、すんすん…」

フューニャは、俺の身体の隅々まで嗅ぎ回した。

な、何を嗅いでるんだ?

「…匂う」

「え?」

「匂います…。血の匂いです」

!?

「そ、そんな馬鹿な…。ちゃんとシャワーを浴びて…」

「シャワーくらいで、私の鼻を誤魔化せると思ったら、大きな間違いです」

…マジで?

「何なら、あなたが買ってきたケーキの種類も匂いで分かります。チーズケーキ、チョコケーキ、ラズベリータルト、ザッハトルテですね?」

「…!」

…全部当たってる。

な、なんてことだ…。俺は…うちの嫁の鼻を見くびっていたということなのか…。

「…何か、言いたいことは?」

「…誠に、申し訳ありませんでした」

土下座である。

もうこうするしかない。

アシスファルト出張と偽って、危険な戦場に飛び込み。

おまけに、その嘘がバレているにも関わらず、更に嘘を重ね。

ケーキごときでご機嫌取りすれば良いやなんて、簡単に考えていた。

俺は嘘つきの最低な男です。はい。

「…」

フューニャの、俺を見る目。

まさに、汚物を見る目だ。

「全く、私に黙ってそんな危険な場所に…。そうと知っていれば、最新作の『骨と臓物の赤人形』を持たせたのに…」

何ですか?その人形。

名前からして、えげつないものであることは分かる。

「あまつさえ妻を騙し、挙げ句ケーキで誤魔化して、明日はデートに行こう、なんて…。面の皮が厚いとはこのことです」

誠に、仰る通りでございます。

言い訳のしようがありません。

「ふ、フューニャ…。ごめんなさい…」

「残念でしたね。私は明日、お姉ちゃんと出掛ける約束をしてるんです」

「!」

な、何だって?

「で、出掛けるって…何処に…」

「ショッピングです。嘘つきの夫と違って、私は疚しいことなんて何もありませんからね。何でも正直に言いますよ」

ごめんなさい。

本当にごめんなさい。

「フューニャに…心配をかけたくなくて…」

「…」

「ご、ごめ…」

「…悪いですが、私は寝ます。夕飯は作ってあるので、勝手に食べてください。食器はそのままで良いですよ。あなたに洗わせると、うっかり割られかねません」

「…!」

フューニャは冷たくそう言い放ち、俺をスルーして、一人でさっさと寝室に入ってしまった。

…見捨てられた、俺とケーキ。

俺は震えながら、半泣きでフューニャの作っておいてくれた夕飯を食べた。

相変わらず美味しかったけど、でも何故だろう。なんか、ちょっとしょっぱい気がした。

目から汁が出ていたせいかもしれない。