The previous night of the world revolution5~R.D.~

…さすがの威厳、ってところか?

あるいは、傲慢か…。

神の信徒とやらになれば、こんなにも堂々としていられるもんなのか?

「愚かな人々。そして、なんて憐れな人々でしょう。神の愛も…その教えも信じることの出来ない、不信仰者達…」

「…このようなやり方でしか布教出来ない神なら、憐れんでもらわなくて結構だ」

冷たく言い返すオルタンス。

…そうだな。

「『天の光教』教祖、ルチカ・ブランシェットだな。身柄を拘束する」

「…えぇ、どうぞ。抵抗はしません」

随分と、潔いことで。

ルチカ・ブランシェットは、大人しく両手に手錠を嵌められた。

だが、その目は俺達に対する敵意に染まっていた。

そして、いきなり喋り始めた。

「私は、権力を欲しいままにし、弱者を虐げ、神を蔑ろにするあなた方を許しません。あなた方には、必ず神の鉄槌が下ることでしょう」

「…」

言ってることが、矛盾してきてないか?

大いなる神の愛で、全て包んでくれるんじゃなかったのか?

それだけ、この女ももう余裕をなくしているのだろう。

「私はこの命を懸けて…あなた方を正しき神の道に連れ戻します」

「…何?」

ルチカ・ブランシェットは狂気の眼差しで、俺達を睨んだ。

命を…。

「どういう意味だ?」

「私は、みすみす犯罪者のレッテルを貼られ、晒し者にはされません。神の信徒であり、『天の光教』の教祖である私は、誰よりも正しく敬虔に、神の信徒としての在り方を示さなくてはならないのです」

「話が見えないんだが」

「それが、不信仰者であるあなた方の限界です」

…何だと?

「そもそも、神の信徒と言いながら、権力を嫌いながら、何故『厭世の孤塔』と手を組む?彼らはお前達の大嫌いなマフィアだろう」

…確かにな。

それだけ追い詰められてたってことなんだろうが…。

どう言い訳するつもりなのかと思ったら。

「利害が一致していただけです。彼らは私達と同じく、帝国騎士団を…そして、『青薔薇連合会』に復讐することを目論んでいました」

…やはり、そういうことか。

『厭世の孤塔』の目的は、あくまで『青薔薇連合会』…。

お互いに、因縁を断ち切らなければ気が済まないようだ。

「それに彼らは、私達では手に入れられないものを持っています」

「…何?」

「…私は、『厭世の孤塔』の方々に依頼して、この建物の各所に時限式の爆弾を仕掛けさせてもらいました」

「…!」

あの小会議室にあった爆弾…やはり。

そういうことだったのか。

「あと数分で爆発するでしょう。避難は間に合いません」

「…分かっているのか。俺達のみならず、自分も、まだ建物に多く残っている信者達も巻き込むことになるんだぞ」

「神の正しき道に帰依する為に、必要な犠牲です。彼らも私も殉教者となり、神の御元に導かれるのです」

綺麗事だな。

殉教者という言葉で、人殺しを正当化しようとしているに過ぎない。

そんなものは都合の良い、ただの言い訳だ。

「あなた方と私達の死によって、この国は変わります。権力に支配された悪しき世を正し、全ての人々が平等な、愛に溢れた世界を…」

さてと、ここいらで。

「『青薔薇連合会』の幹部殿から、伝言だ」

俺は、ルチカ・ブランシェットの言葉を遮って言った。

「…?」

今こそ、あれを伝えるべきだろう。

この場にルレイアがいたら、高笑いしていただろうな。

見せてやれないのが残念と言うべきか、見せなくて良かったと言うべきか。

「『この俺の仮面を欺くには、少々爆弾の配置が甘かったようだな。悪いが、アクション映画の主人公の座は、俺が頂いていく』とのことだ」

あのキザな仮面で言うんだから、なかなか様になってるのが憎いところだな。