The previous night of the world revolution5~R.D.~

車に揺られて約二時間。

俺達は、アシミムの屋敷…改め。

アシミムの王宮に辿り着いた。

何の前触れもなく前王が暗殺されて、国王が替わったばかりだというのに。

車窓から見るシェルドニア王国の民衆の暮らしは、平和そのものだった。

政変なんて、まるでなかったも同然。

これも全て、忌まわしい『白亜の塔』の恩恵という訳だ。

平和で結構なことだな。

今ルティス帝国で起きている社会現象は、シェルドニア王国では有り得ないことだろうな。

新興宗教が台頭して、王政を脅かすなど。

シェルドニアの洗脳政治も、あながち間違いではないってか?

「…あー…。何もかも白くて気分悪い…。墨汁持ってくれば良かった…」

「全くだ。目に悪いことこの上ない」

俺がもし今墨汁を持っていたら。

辺り一面に撒き散らして、真っ黒に染め上げたのに。

そして、更に気分が悪いのは。

「お久し振りですわね…。『青薔薇連合会』の皆様」

縦ロールを卒業し、ちょっと一端の女王様になったつもりの、元なんちゃってゆるふわお嬢様(仮)。

アシミム・ヘールシュミットである。

「久し振りですね、アシミム女王陛下…。頭の中まで縦ロールが詰まってて、縦ロールを切り落としたら頭スッカスカで、政治なんて出来ないと思ってましたが…。意外に安泰なようで、何よりです」

まぁ、全ては『白亜の塔』あってのお陰だろうがな。

洗脳システムがなければ、この国は何の脅威にもならない。

アシミムは俺の皮肉に負けじと、白々しく話を続けた。

「わたくしとラトヴィを救ってくれたあなた方です。積もる話もありますし、是非ゆっくりとくつろいで頂きたいところですが…」

「生憎と、こちらはそんな暇はないんでね。早速本題に入らせてもらいますよ」

「…そう言うと思いましたわ」

そちらの都合など、知ったことか。

この国の洗脳システムを知る俺達が、どうして一秒でも長く、この国に滞在したいだろうか。

話を済ませて、とっとと帰りたいに決まってる。

シェルドニアに長居なんて、冗談じゃない。

何がくつろいで頂きたい、だ。

洗脳させて頂きたい、の間違いだろうが。

すると。

「…ルレイア卿」

「何です」

「華弦は…元気にしているかしら」

…へぇ。

自分を裏切って国を出ていった部下のことを、未だに覚えていたのか。

「そりゃあもう。あなたのところにいた頃より、ずっと生き生きしてますよ」

皮肉たっぷりに、そう答えてやった。

事実、華弦はルティス帝国に来てから、毎日充実した暮らしを送っているように見える。

仕事ぶりは優秀だしな。

妹との仲も良好。

良好過ぎて、ルヴィアさんが捨てられかけている始末だ。

「そう…。それなら、良かったですわ」

「…」

…少なからず、華弦のことを気にしていたのか。

アシミムは、心から安心したようだった。

…あぁそうですかい。そりゃ良かったね。

華弦の方は、あんたのことなんて、どうとも思っちゃいないだろうけどね。

あんたが満足なら、それで良いんじゃないの。