The previous night of the world revolution5~R.D.~

正直、もうこれ以上議論しても無駄なように思う。

だって、俺とこの人は、絶対に分かり合えない。

その自信がある。

年齢サバ読んでる時点で、なぁ?

もう帰ろうかと思ったが、しかし。

ルルシーが、ルチカ教祖に食って掛かった。

「あんた、貴族や帝国騎士団のことを散々扱き下ろしてたが」

「何か間違ったことを言いましたか?」

「人は皆平等と言いながら、その口で貴族や帝国騎士団を責めるんだな。知ってるか?貴族の連中も帝国騎士団の連中も、同じ人間なんだぞ」

…ルルシー。

滅多に他人に食って掛かることのないルルシーが、敢えてこの話題を口にするとは。

ルルシーにとって一番納得行かなかったのが、この話だったのだろう。

「勿論、同じ人間です。だからこそ、彼らだけが安楽を貪っているのが許せないのです」

「…貴族が、本当に安楽を貪ってるだけで生きていられるのなら…こんなに幸せなことはないな」

…そうだね。

もし本当にそうだったなら、どんなに良かったか!

何を隠そう、俺の不幸の根源は、その安楽な貴族様であったことなんだよ。

「貴族だからって、何の苦労もせず、何の努力もせず生きていられる訳じゃない」

ルルシーは、きっぱりとそう言った。

俺も同じことを思ったけど、でもわざわざ口にするつもりはなかった。

それでも、ルルシーは言わずにはいられなかったのだろう。

だって、知っているから。

貴族に生まれてしまったが為に、地獄のような苦しみを味わった者を。

「同じように、いや…それ以上の苦しみを味わっている者もいるんだ」

生まれた瞬間から、必ず帝国騎士官学校に入れ、帝国騎士団に入れ、それが出来なければお前に生きる価値はないと、呪文のように唱えられ続け。

その為に、血の滲むような努力をして。

努力して、苦しんで、悩んで、それでも自分の運命を自分で決める権利もなくて。

本人の意思より、家の名前や体裁ばかりを気にして。

ようやく入った天下の帝国騎士官学校は、俺にとって地獄以外の何物でもなかった。

ようやく入った天下の帝国騎士団も、努力が報われる前に、無惨に裏切られた。

俺が貴族でなければ、あんな不幸を味わうことはなかっただろう。

俺がウィスタリアなどという名前を背負って生まれていなければ、あんな思いをせずに済んだだろう。

俺だけじゃない。

ルリシヤだってそうだ。

彼だって、貴族に生まれてしまったが故に、家督争いなどに巻き込まれ、おのれの人生を狂わされた。

過剰な期待を背負わされ、肩身の狭い思いをし。

実の兄に家を追い出され、挙げ句回り回って、親友を目の前で失うことになった。

普段は、仮面で隠されて、彼の素顔を見ることは出来ない。

でも、あの仮面が、単なるファッションの意味だけではなく。

彼の苦しみや、悲しみの過去を隠す役目も果たしていることを…ルルシーは知っている。

本人に言っても、絶対にはぐらかすだろうけどね。

貴族だからって、幸せになれる訳じゃない。

平民だからって、不幸になる訳じゃない。

貴族制度があってもなくても、その人が幸になるか不幸になるかは、誰にも決められないのだ。