「こころちゃん、しつこいようだけど、あの事は、」
「分かってる。絶対に言っちゃダメ。でしょ?」
「もし友利さんにバレちゃったら、婚約破棄されちゃうかもしれないし、、、だから、絶対に秘密よ?」
「はいはい。」
わたしは耳にタコが出来る程言われてきた言葉に呆れながら、自分のバッグを持った。
「こころ様、お荷物お持ち致しますよ。」
そう言ったのは、家政婦のリセ。
彼女は、38歳で実家にいる家政婦たちの中でも一番年齢が近く、わたしが一番信頼している人間だ。
「あれ?リセも一緒に行くの?」
「新居までお送り致します。」
リセがそう言うと、母は「リセはこころちゃん宅の家政婦もしてくれるのよ。」と言った。
「え、マジ?」
「はい、10時〜17時の間だけですが、伺わせていただきます。」
「リセそんなに働いて大丈夫?」
「大丈夫です。その分、旦那様と奥様宅の方は他の家政婦に任せてありますから。」
リセはそう言うと、「では、参りましょうか。」と言った。
「こころちゃんが居なくなるなんて寂しくなるわ。」
「そんな遠くに行くわけじゃないんだから。」
「たまには、帰って来てね?」
子離れが出来ていない母をテキトーにあしらい、わたしはリセが運転する車に乗り込んだ。
「こころちゃん、基さんと仲良くね。入籍日や結婚式の準備はこっちで話し合って準備しておくから。それまで愛を育んでおくのよ?」
頭の中がお花畑の母に見送られ、わたしは実家を出て新居へと向かった。
とうとう、この日がきてしまったんだなぁ。
そう思いながら、窓の外を流れる景色を眺めていたのだった。



