今日の部活は、最近遅くまでやることが続いたので早めに上がることになった。

部活動としてやっているが、大会もコンテストもない。
活躍できる場はプライベートしかない。
顧問の先生も一応いてもともと経験者だから、たまに顔を出してはアドバイスをくれたりする。

そんな顧問の先生から、今日は早く上がるように言われたというわけだ。


まあ確かに少々疲れも溜まっていたし、全員同意でまっすぐに家に帰ることにした。

今日は早く終わったので鈴木さんにメッセージを送ったんだけど、なかなか既読が付かない。
彼女にも予定があるだろうし、と思いつつ、何度もトークルームを開いてしまう俺はなかなか重症だと思う。



なんとなくしばらく既読が付かないような気がして、本当はまっすぐ帰ろうと思ったのだけど、街の方へ方向をシフトして、少しだけ寄り道して帰ることにした。


土曜日には鈴木さん(と、芝崎さん)が見に来てくれるから、何かお礼の品でも買おうか。

鈴木さんは食べるのが好きだから、何かおいしいもの?だとしたら、お礼の品じゃなくて飯でも誘ってみようか。



そんなことを考えながら立ち並ぶ飲食店をふと見やると、洋食屋の窓際に鈴木さんと芝崎さん、そして向かい側に座る男の人二人が楽しそうに笑い合っているところを目撃してしまった。



見ちゃいけないものを見た気がして、寄り道はやめてすぐに帰路についた。


寝るころになってようやく鈴木さんからの返事が返ってきたが、今日見かけたことも、誰と食事していたのかも、俺にはまだ鈴木さんに聞く資格はない。


やっぱりあの笑った顔を他の人に向けるところなんて見たくなかったし、そもそもあいつら一体誰なんだというモヤモヤが頭から離れない。

佐藤なんとか先輩の次はこれか。クソ。



――


フェス当日。


見に行くと言ってくれた日から俺は鈴木さんに、関係者エリアでもわかりやすいところにいてほしいと念を押しておいた。
ステージ横の控え室から客席の方をちらりと覗いてみたが、見る限りまだ来ていないか関係者エリアに座っていない。



「おー、めずらしいな蓮助。客席気にするなんて」


ドリンクを片手に持ちながら隼人が俺の横に並んで一緒に客席を見る。
なるべくメンバーにはバレないように取った行動のつもりだったが、最近の俺はやっぱり余裕がないようだ。


「いや…、天先輩の好みの女の人いるかなって。その方が天先輩調子乗ってくれそう」


「あ~なるほどね!!天先輩来て~!蓮助がめちゃめちゃ気が利く!!」


「いや、いいって呼ばなくて」


「来たよ!!!かわいい子いる!?」


「……」


さすが、勇希先輩の親父さん主催なだけあって、今日は人が多い。関係者エリアも結構人がいるし、鈴木さんたちを見つけるのは結構難しいかもしれない。
メッセージを確認する時間もないかもしれないし、なんとしてでも今このタイミングで位置だけでも確認しておきたかったんだけど。

はあ、とため息を吐くと、会場を一生懸命チェックしていた天先輩が思い出したように俺の名前を呼んだので、俺も関係者エリアをしぶとくチェックしながら返事をした。


「そういえば、鈴木恵都ちゃん!わかったよ!すごくかわいい子だね!!」


「は?」


勢いよく天先輩の方を見て何でだと聞く前に、天先輩は事の経緯を話して聞かせてくれた。

毎日メッセージのやり取りをしていたのに、鈴木さんとはその話題にはならなかった。
佐藤なんとか先輩の連絡先も知らないと言っていたから鈴木さんにはその手段しかなかったのだろうけど、わざわざ鈴木さんが3年生の階にまで出向いて、その先輩と二人になったのだと考えるとまたモヤモヤが復活した。



「で、どうなったんですかそのあと」


「ああ、うん。残念ながらフラれたらしい。彼氏?がいるようなこと言ってたよ~」


……は???

いや、うん。何かの勘違いだとは思うし、佐藤なんとか先輩がフラれたのも当然の結果だとは思うが、彼氏?鈴木さんがそう言ったのか?


一気にこの前の洋食屋の光景を思い出す。



「まあでも、かわいい子だったし彼氏いてもおかしくないよな~!バブち、そろそろお仕度しましょ~ね」


「……はい」



ダメだ、すげえモヤモヤしてる。

こんなんで今日ちゃんと叩ける気がしない。
今日は俺にとって大事な日なのに。カッコ悪いところ見せられないのに。




いざ俺らの出番が回ってきたら、モヤモヤしている気持ちを吹き飛ばす様にこの上なく集中して叩き続けた。
観客が多いのもあり、俺の位置が一番後ろだということもあり、観客の盛り上がりと照明で客席の方はまともに見ることもできなかった。

大トリの大先輩たちのステージが終わったあとに客席を見に行ったけど、すでに人が引いていて、結局鈴木さんの姿を見つけることができなかった。