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「ねえ、バブちってC組だよね?」


「はい、そうですけど」


「あのさぁ、うちのクラスのやつがちょっと前にバブちのクラスの女の子に告白したらしいんだけど」



ある日の部活の休憩中、天先輩が俺にタイムリーな話を振ってきたので、ドラムスティックを磨く手を止めて天先輩の方を見た。


3年生の先輩ということだけしか知らなかった俺は、鈴木さんに告白した人がどんな人なのかも知らずにいた。ましてや、天先輩や勇希先輩に聞いてしまえば面倒な展開になりかねないと思っていた矢先だったのだ。




「そうなんですね」


「うん。クラスで話題になっててさ~!名前は確か恵都ちゃん!かわいい名前だよね」



・・・なんだそいつ。

クラスに鈴木さんの名前まで晒してんのかよ。断られない自信でもあるんか。
断られるとは知らずに。可哀想なやつめ。
鈴木さんの名前を晒すなんて、余計なことをしてくれる。



「・・・いますよ、うちのクラスに」


「お~!どんな子?」




俺は想定外の出来事に戸惑っていた。

まさかこんなルートで天先輩に鈴木さんのことを知られるとは。
なにせ天先輩と勇希先輩は同じクラスだし、当然この話題は勇希先輩の耳にも入っている可能性が高い。



「まあ、いい子ですよ。ちなみにその告白したって先輩はどんな人なんですか?」


「そいつもめちゃめちゃいいやつだよ!すごく優しいし、勉強はできるし、ノリもいいし。女子が関わったら絶対に好きになっちゃうタイプ」



どうにか鈴木さんの話題は避けて例の先輩のことを聞き出すことに成功。

ちなみに名前は佐藤ハルトというサッカー部の人らしい。


天先輩は“いいやつ”だと言うけど、まあそんな人間はごろっといると思うけど。

まあ断られるんだし、この先輩。
別にそこまで敵視はしてないけど、警戒しといて損はないだろう。



「ハルトはモテるんだよ」


「・・・へえ」


「だから、そんなモテる男を射止めた女の子がどんな子か気になるじゃん?」



外したはずの話題はまた元に戻る。

ここで俺が自分の好きな子の情報をノコノコ漏らすわけがない。
それにどうせ断られるんだから、鈴木さんのことを知っても無駄だと思う。

どうせ!断られるんだから。



「あ、そういえばさっきのところなかなか合わなかったですよね。俺がもっと早く叩けばいいですか?」


「ああ!じゃあ俺らだけでもう一回合わせてみる?」



無理矢理その話題を断ち切って部活の話に方向転換。
天先輩はチョロいところがあるので、方向転換されてもすんなりと受け入れてくれた。



正直なところ、手応えはあると思う。

連絡先もなんやかんやで交換してくれたし、ちゃんと返事も返ってくるし、告白してきた佐藤ハルト先輩のことも断るつもりでいるらしいし。
それに俺の言動で鈴木さんの赤くなる顔も拝見することが出来ている。

まあ、さすがにあの日俺が下駄箱で告白したときにわりと即答で”無理だよ!!”なんて言われたときはビックリしたしそれなりに傷ついたけど。


それでも、鈴木さんにあんな顔をさせられるのは俺でありたいし、ほんの少しでも鈴木さんが他の人のことを考えるなんてことはあってほしくないわけで。


だから早く、俺の彼女になってよ鈴木さん。