とりあえずトイレに逃げ込んだ私はとびっきり大きなため息を吐いた。
クラスメイトの男子に、3年の先輩から告白されたことをクラス中に暴露されてしまった挙げ句、馬渕くんにはあんな表情で見られるし、もうあの場にいることはさすがに無理すぎた。
”トイレ!!!”なんて叫んだせいで、あいつ急に尿意来すぎだろ思った人もいただろうな。
とにかくその場を離れたくて仕方なかったからもうそう思われていようが何でもいい。
どんなにキャパオーバーでもお腹は空くもので、誰も居ない女子トイレに私の腹の虫が盛大に鳴る。
・・・はあ、戻ろう。
さすがにこのままトイレに居座り続けると、逆に不自然だろうし。
とりあえず、お腹空いたんだよな。
「ヒィッ!!」
視線を下げたまま女子トイレから出ると、出てすぐに人の影があったので思わず可愛げのない声をあげてしまった。
ぶつからなくてよかった、と顔を上げて謝ろうとすると、馬渕くんが何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「ちゃんと前見て歩こうね、鈴木さん」
「ご、ごめん・・・ビックリしちゃって、」
「や、ビックリしたのは俺の方だよ。何さっきの」
「あれは聞かなかったこと、」
「に、できるわけないよね」
「で、ですよね・・・」
あれ、なんかめっちゃ機嫌悪いよね馬渕くん・・・
「ちなみに今教室で芝崎さんたちが周りをなだめてたから、それ以上イジってくるやついないと思うよ」
「そ、そっかよかった・・・」
「で、さっきの本当?」
本題を戻すように馬渕くんは壁にもたれかかりながらこちらを見る。
この話が終わらなければ教室には帰れなさそうなやつだ。
私は間をおいてコクリと頷いた。
「へえ。先輩なんでしょ?どんな人?名前は?」
「えっと・・・初めて見た人だったから話したこともないし、名前もちゃんと聞いてなかった・・・」
「情報少なっ」
表情を崩して笑った馬渕くんを見て、私の緊張は少し解れた。
彼は自然に笑っているだけなのに、本当に綺麗な顔をしている。さすが人気でモテるだけある。
さっきの告白でさえ私は自分への負荷がすごかったのに、きっと馬渕くんはそんな経験山ほどしたことあるんだろう。
すごいなあ・・・
「やっぱり女子ってそういうのすぐ話題にするんだね」
「いや、うん・・・ビックリしすぎてキャパオーバーだったし、まあでもすぐ断ろうとは思ってるし、」
「ねえそれって、俺のこともそっちで話題になってんの?」
「へ?」
そもそも同じクラスに馬渕くんがいるってだけで話題になんかできないというのが大前提だけども、もちろん"バブちに告られたんだけどヤバくない!?"なんてネタにすることさえもできない。
だって、”あの馬渕くん”だよ?
「いやいや、そんな、話題になんてできるわけないじゃん、」
「それってその先輩みたいに断るつもりないってこと?」
「え、ちょ、ちょっとあの、」
質問多くて混乱してきた。
確かにあの馬渕くんに告白されたなんて、自慢にもなる。
自慢なんてしたら彼に好意を寄せている人にフルボッコにされるだろうけど、私自身が馬渕くんにそんな気がないのなら連絡だって返さなければいいんだし、ちゃんときっぱりと断ればいいのだ。
それなのに私はずっと頭を悩ませ、ずっと彼の言葉を思い返しては顔を熱くしている。
そんな馬渕くんは、言葉が出ない私を見て、またあの綺麗な笑顔を私に向けた。
「可能性ありってことだね」
ドッカァァァン!とまた心臓が爆発するように跳ね上がった。
それと同時に、このタイミングで私のお腹が盛大に鳴ってしまった。
最悪最悪最悪・・・!!!
顔から火が出るんじゃないかというくらいに熱い。
その音を聞いて馬渕くんはまた腹を抱えて笑っている。
「はあ~、ごめん、食べてないのか。やっぱり鈴木さんって最高だわ」
「もうちょっと本当・・・恥ずかしいから逃げていい?」
「うん、先教室戻って早く食べな。もう戻っても大丈夫だと思うよ」
恥じらいなのかなんなのか、笑った顔の馬渕くんを見てドキドキするのが止まらなかった。
