みわに昨日の放課後のことを伝えることが出来ないまま、今日という日が刻一刻と過ぎていく。


昨日のことばかり考えてしまっているせいか、その上私よりも後ろの席に座る馬渕くんの存在を意識してしまっているせいか、今日一日はあっという間に過ぎ、残すところもうあと一限しか残っていない。

そういえば今朝まで今日のお弁当は何だろうと楽しみにしていたのに、何食べたんだっけ・・・
思い出せない・・・


そんな残りの一限は現代文だったのだけど、現代文の先生が急用で授業に出れなくなってしまい、自習になったと自習監督の先生が教室に入るなりそう言った。


各々予習復習、勉強なら何をやっても良いと言い、その先生は教壇の前に椅子を持ってきて自分の仕事をやり始めた。

適当だなあ。


静かにしていれば何やってもいい、みたいな適当な先生で有名なので、自習になって真面目にやる人間は半数にも上らない気がする。

そんな全員が集中力皆無時間となってしまった今、私はというと、こういうときにこそ授業に集中したかったと心の底から思った。今はどうにかして気を紛らわせたいのに・・・!


チクショウ・・・こうなったら明日の選択授業の予習をしよう。


教科書とノートを開いて、予習に取りかかることにした。


―――



どれくらい時間が経っただろうか。

集中力が切れ始めて、一旦伸びをしようとペンを置くと、ポケットの中のスマホがタイミング良く短く震えた。

一度教壇の前に座る先生を確認しつつ、完全に無意識でスマホを開いてしまい、私は後悔した。




「(あっ・・・)」



そう思ったときにはもう遅くて、返事をしていないままだった馬渕くんとのトークルームを既読にしてしまった。




『真面目に何やってんの~』



・・・何のためにこんなに集中して勉強していたと思ってるの私!!!


ああもう、既読にしてしまったものは仕方がない。

馬渕くんはそんな私の様子を後ろから見ているだろうから、今返事を返すしか選択肢はない。


『明日の選択の予習・・・』


『へえ、えらいね』
『鈴木さん宿題見せてくれなかったね』


それは・・・そっちが直接話しかけてこなかったし、そもそも見せる暇なんてなかったし・・・

と頭の中では言い訳しか浮かばないのだけど、どれを言っても彼に気があるようにしか思えない返事な気がして、返す言葉を探す。



馬渕くん、今後ろでどんな顔してるんだろう。
もちろん振り向く勇気もないのだけど。



『近くの友だちが見せてくれたんでしょ』


『え、何で知ってるの?』




ぼ、墓穴掘った~・・・!!!!!!!

ただ会話を盗み聞きしてたの晒しただけじゃんこれじゃあ!!!

何やってんの私!!!


ど、どうしよう何て返せば・・・!


既読にしたままオロオロしているところも馬渕くんに見られているはずだと思うと、さらに挙動不審に拍車がかかる。
私は謎にペンをカチカチ鳴らして何度も脚を組み直したり、見事に不審者だったと思う。

何もうこのやり取り早くやめたい・・・


返事に困っていると、またトーク画面にメッセージが浮き上がる。


『教壇見てみ』


言われた通り教壇を見ると、頬杖をついて顔を上に向けたまま口をアホみたいにぽかんと開けて眠る適当先生。

その顔が、申し訳ないけど死ぬほど面白くて、漏れそうになる笑い声を手のひらで必死で抑えた。

完全に自分ワールドに入っていた私は、今更周りのクラスメイトが先生を見てクスクス笑っていることに気が付いた。



『ちょっと笑わせないで!!!』


『肩震えてるよ。笑』



この至近距離で馬渕くんと私だけの会話が繰り広げられている状況、本当早くやめたい。

やめたいけど。


確実に縮まっている馬渕くんとの距離間を、どうやってうまく取っていけばいいのかわからない。

これからどう接すればいいんだろう。


結局今日は馬渕くんの顔も見れないまま、一日が終わってしまった。