―――――
「・・・さむ」
そういえばこの週末は数年に一度の大寒波になると、今朝のテレビで聞こえた天気予報を思い出した。
先週も寒かったけれど、今週はそれ以上に寒い。部活の時間になるともっともっと寒い。
部室に向かうときは暖房の効いた教室を出なければならないから、顔が隠れるくらいにマフラーをぐるぐるに巻いた。
「あれ、先輩たちまだ来てない」
HRが長引いているのだろうか。
一着で部室に到着したらしい俺は、とりあえず部室の暖房を入れ、昼休みに途中だったスマホゲームでもしてよう、とハンガーに掛けた制服のブレザーのポケットに手を突っ込んだのだが。
「・・・最悪だ」
教室の自分の机の中にスマホを置きっ放しにしてしまったことを今思い出す。
はあ、また戻らなきゃ。
部室に誰もいないことをいいことに、盛大にため息を吐いた。
マフラーをまたぐるぐる巻きにして、部室を出た。
馬渕蓮助、いざ教室へ。
既に部活着に着替えた運動部のクラスメイトとすれ違いざまに軽く挨拶や会話を交わしながら校舎の階段を駆け上がり、自分の教室のある廊下を足早に歩く。
俺の教室の電気がまだ付いている。誰か残っているのだろうか。
教室の扉付近まで到達したところで中から会話が聞こえ、その内容を聞いて反射的に俺は動きを止めた。
「バブちってさ、意外と女の子の趣味変わってそうじゃない?」
”バブち”って俺?俺だよね?
そしてその声の主が誰なのかが分かると、その会話の続きが気になりこのまま教室に入るのを一度やめた。一緒に会話しているのは同じクラスの子だろうか。
「え?そうかな?なんでそう思うの?」
「だってさ、一緒にいる先輩、」
「あ、佐藤天先輩?」
「そうそう!天先輩ってちょっと変わってるじゃん?」
「確かに!イケメンだけど、ちょっと不思議だよね」
「うん、バブちも仲良いけどちょっとめんどくさそうにしてるときあるよね。でもなんだかんだいつも一緒に居て仲良さそうだし、そういうめんどくさいタイプが好きなのかな~とか」
「あ~わかるかも~!」
ほう。いいとこついてる。
俺は壁に寄りかかって会話を聞きながら、ウンウンと腕組みをしながらひとり頷く。
寒さを忘れて中にいるクラスメイトの会話を盗み聞きするなんて、確かに趣味が悪い男かもしれない。
すると教室の中でスマホの長い振動音が鳴り響き、中にいるクラスメイトの会話がパタリと止まる。絶対、俺のスマホである。
「・・・え?誰かスマホ忘れたのかな?」
「そっちから聞こえるよね」
さて、これはいよいよ教室に入っていかなければならない。
クラスメイトのビックリしたような顔を想像するとすごく気まずいけど、大事なものだし置いておくわけにもいかない。
馬渕蓮助、いざ教室へ。
「蓮助――――!!!!!」
教室に入ろうと扉に手を差し掛けたところで、廊下の向こうからスマホをぶんぶん回しながら大声で走ってくるめんどくさい先輩。自分でも信じられないくらいのデカいため息が出た。
「そんなところにいたの!?俺今電話しちゃったよ!!」
「知ってます・・・」
「いや、大した用じゃないんだけどさ、部室早く行ってたら暖房付けといてって頼もうとした」
「もう付いてるっすよ。俺教室に用があるんで、先に行っててください」
「お、サンキュー!じゃあ先に行ってんねー」
また大声で「さっむ!」と校舎の階段を降りていく、めんどくさい先輩こと佐藤天先輩。
天先輩の背中を見送って、またため息が出た。先程の天先輩の大声は当然中にいるクラスメイトに聞こえたはずだから、教室に入る前に俺がここにいることがバラされてしまった。
はあ・・・まあいっか。気まずいけど。
「あ、うまぶち、くん、」
諦めてゆっくり扉を開け、幸いにも廊下側の一番後ろという神席である自分の席に直行すると、さっきまで俺を”バブち”と呼んでいた当事者は、俺以上に気まずそうに名前を呼んだ。
その当事者は、クラスメイトの鈴木恵都だった。
「ん?なに?」
「あー、えっと・・・さっきの、聞こえてたよね・・・?」
「さっきの?って?」
とぼけてみると、鈴木さんはほっと安心しきったように安堵の息を吐く。
ついでに一緒に居るクラスメイト、名前は確か芝崎みわも同じような顔をしていた。
もし俺がここで正直に応えていたら、一体どんな反応をするのだろうか。
とりあえず俺は机の中にいる、寂しく迎えを待っていたであろう親友(スマホ)に手を伸ばし、さっきの天先輩からの着信があった画面を確認した。
「そっか、聞こえてなかったなら、何でもない」
「ふーん。まあ俺は鈴木さんみたいなめんどくさいタイプ、嫌いじゃないよ」
「・・・え!?ちょっと待って!?聞こえてるじゃん!」
「俺のこと”バブち”って呼ばないの?」
「あーもーちょっと待ってそれはごめんなさいほんと!!!」
顔を真っ赤にして両手で自分の頬を包みながらペコペコ頭を下げる鈴木さん。
すっごい動揺してる。笑える。
さっきから我慢できずに上がりっぱなしの口角がさらに上がってしまった。
「ふ・・・(笑)ごめん、鈴木さんおもしろいからつい」
「うわぁ・・・もう、馬渕くん意地悪いなぁ・・・!」
「ああ、俺好きな女の子には意地悪したくなっちゃうタイプなんだよね」
「へえ・・・・・・・・・・・ん?え!?!?」
目玉が飛び出しそうなくらいに目を丸くさせて、おもしろいくらいに動揺する鈴木さんと、口をあんぐり開ける芝崎さん。期待以上の反応がおもしろくて、写真に収めたいレベル。
教室の壁掛け時計の時間を確認すると、部室からここへ来てそこそこ時間が経っていることに気付いた。
「じゃあ、俺行くから」
そう言い残し、再び廊下に出るため扉を開けた。
背後からは絶賛動揺中の彼女の声が聞こえ、ニヤけが止まらない俺は鼻が隠れるくらいまでマフラーを引き上げた。
「また来週ね」
「・・・!」
引き上げたマフラーを一度下げ、ニコリと笑って鈴木さんに挨拶をした。
またまた顔が赤くなってその場に立ち尽くす鈴木さんを目に焼き付け、教室を出た。
はあ、おもしろかった。
そして、今日が金曜日でよかったと思った。
この土日で、鈴木さんの頭の中が俺でいっぱいになればいい。
「・・・さむ」
そういえばこの週末は数年に一度の大寒波になると、今朝のテレビで聞こえた天気予報を思い出した。
先週も寒かったけれど、今週はそれ以上に寒い。部活の時間になるともっともっと寒い。
部室に向かうときは暖房の効いた教室を出なければならないから、顔が隠れるくらいにマフラーをぐるぐるに巻いた。
「あれ、先輩たちまだ来てない」
HRが長引いているのだろうか。
一着で部室に到着したらしい俺は、とりあえず部室の暖房を入れ、昼休みに途中だったスマホゲームでもしてよう、とハンガーに掛けた制服のブレザーのポケットに手を突っ込んだのだが。
「・・・最悪だ」
教室の自分の机の中にスマホを置きっ放しにしてしまったことを今思い出す。
はあ、また戻らなきゃ。
部室に誰もいないことをいいことに、盛大にため息を吐いた。
マフラーをまたぐるぐる巻きにして、部室を出た。
馬渕蓮助、いざ教室へ。
既に部活着に着替えた運動部のクラスメイトとすれ違いざまに軽く挨拶や会話を交わしながら校舎の階段を駆け上がり、自分の教室のある廊下を足早に歩く。
俺の教室の電気がまだ付いている。誰か残っているのだろうか。
教室の扉付近まで到達したところで中から会話が聞こえ、その内容を聞いて反射的に俺は動きを止めた。
「バブちってさ、意外と女の子の趣味変わってそうじゃない?」
”バブち”って俺?俺だよね?
そしてその声の主が誰なのかが分かると、その会話の続きが気になりこのまま教室に入るのを一度やめた。一緒に会話しているのは同じクラスの子だろうか。
「え?そうかな?なんでそう思うの?」
「だってさ、一緒にいる先輩、」
「あ、佐藤天先輩?」
「そうそう!天先輩ってちょっと変わってるじゃん?」
「確かに!イケメンだけど、ちょっと不思議だよね」
「うん、バブちも仲良いけどちょっとめんどくさそうにしてるときあるよね。でもなんだかんだいつも一緒に居て仲良さそうだし、そういうめんどくさいタイプが好きなのかな~とか」
「あ~わかるかも~!」
ほう。いいとこついてる。
俺は壁に寄りかかって会話を聞きながら、ウンウンと腕組みをしながらひとり頷く。
寒さを忘れて中にいるクラスメイトの会話を盗み聞きするなんて、確かに趣味が悪い男かもしれない。
すると教室の中でスマホの長い振動音が鳴り響き、中にいるクラスメイトの会話がパタリと止まる。絶対、俺のスマホである。
「・・・え?誰かスマホ忘れたのかな?」
「そっちから聞こえるよね」
さて、これはいよいよ教室に入っていかなければならない。
クラスメイトのビックリしたような顔を想像するとすごく気まずいけど、大事なものだし置いておくわけにもいかない。
馬渕蓮助、いざ教室へ。
「蓮助――――!!!!!」
教室に入ろうと扉に手を差し掛けたところで、廊下の向こうからスマホをぶんぶん回しながら大声で走ってくるめんどくさい先輩。自分でも信じられないくらいのデカいため息が出た。
「そんなところにいたの!?俺今電話しちゃったよ!!」
「知ってます・・・」
「いや、大した用じゃないんだけどさ、部室早く行ってたら暖房付けといてって頼もうとした」
「もう付いてるっすよ。俺教室に用があるんで、先に行っててください」
「お、サンキュー!じゃあ先に行ってんねー」
また大声で「さっむ!」と校舎の階段を降りていく、めんどくさい先輩こと佐藤天先輩。
天先輩の背中を見送って、またため息が出た。先程の天先輩の大声は当然中にいるクラスメイトに聞こえたはずだから、教室に入る前に俺がここにいることがバラされてしまった。
はあ・・・まあいっか。気まずいけど。
「あ、うまぶち、くん、」
諦めてゆっくり扉を開け、幸いにも廊下側の一番後ろという神席である自分の席に直行すると、さっきまで俺を”バブち”と呼んでいた当事者は、俺以上に気まずそうに名前を呼んだ。
その当事者は、クラスメイトの鈴木恵都だった。
「ん?なに?」
「あー、えっと・・・さっきの、聞こえてたよね・・・?」
「さっきの?って?」
とぼけてみると、鈴木さんはほっと安心しきったように安堵の息を吐く。
ついでに一緒に居るクラスメイト、名前は確か芝崎みわも同じような顔をしていた。
もし俺がここで正直に応えていたら、一体どんな反応をするのだろうか。
とりあえず俺は机の中にいる、寂しく迎えを待っていたであろう親友(スマホ)に手を伸ばし、さっきの天先輩からの着信があった画面を確認した。
「そっか、聞こえてなかったなら、何でもない」
「ふーん。まあ俺は鈴木さんみたいなめんどくさいタイプ、嫌いじゃないよ」
「・・・え!?ちょっと待って!?聞こえてるじゃん!」
「俺のこと”バブち”って呼ばないの?」
「あーもーちょっと待ってそれはごめんなさいほんと!!!」
顔を真っ赤にして両手で自分の頬を包みながらペコペコ頭を下げる鈴木さん。
すっごい動揺してる。笑える。
さっきから我慢できずに上がりっぱなしの口角がさらに上がってしまった。
「ふ・・・(笑)ごめん、鈴木さんおもしろいからつい」
「うわぁ・・・もう、馬渕くん意地悪いなぁ・・・!」
「ああ、俺好きな女の子には意地悪したくなっちゃうタイプなんだよね」
「へえ・・・・・・・・・・・ん?え!?!?」
目玉が飛び出しそうなくらいに目を丸くさせて、おもしろいくらいに動揺する鈴木さんと、口をあんぐり開ける芝崎さん。期待以上の反応がおもしろくて、写真に収めたいレベル。
教室の壁掛け時計の時間を確認すると、部室からここへ来てそこそこ時間が経っていることに気付いた。
「じゃあ、俺行くから」
そう言い残し、再び廊下に出るため扉を開けた。
背後からは絶賛動揺中の彼女の声が聞こえ、ニヤけが止まらない俺は鼻が隠れるくらいまでマフラーを引き上げた。
「また来週ね」
「・・・!」
引き上げたマフラーを一度下げ、ニコリと笑って鈴木さんに挨拶をした。
またまた顔が赤くなってその場に立ち尽くす鈴木さんを目に焼き付け、教室を出た。
はあ、おもしろかった。
そして、今日が金曜日でよかったと思った。
この土日で、鈴木さんの頭の中が俺でいっぱいになればいい。
