フロリア―ナの選択

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〇フロリアーナの屋敷の庭

NA:
見合いの後で、フロリアーナが屋敷の庭を案内して歩いている。


ジャン「(静かな声で)フロリアーナさまにはお好きな人がいましたか」
フロ「さま抜きの、フロリアーナと呼んでください」
ジャン「はい。でも、条件がひとつあります」
フロ「何でしょうか」
ジャン「私を王子抜きの、ジャン・バスチャンと呼んでください」

フロ「(笑って)はい。ジャン・バスチャン、わたしには大好きな方がおりました」
ジャン「その方は、どうなさいましたか」
フロ「その方には、……振られました」
ジャン「あなたは、正直な方ですね。(はははと笑って)まさか、そういうストレートな答えがくるとは思いませんでした」
フロ「ジャン・バスチャンは振られたことがありますか」
ジャン「長い間、気持ちが通じなかった人がおりました。それって、振られた部門にはいりますか」
フロ「ちょっと違いますね」
ジャン「では、振られたということは自覚はしていません。フロリアーナは振られて、どうしましたか」
フロ「忘れるように、ただいま、努力しているところです」
ジャン「ええっ、今ですか」
フロ「そうです。現在進行形です」

ジャン「ああ、そうですか。私に、何か、ご協力できることはありますか」
フロ「これはひとりで乗り切らなくてはならないでしょう。わたし、さいごまでがんばってはみたのですが、嫌いになってしまわれたら、仕方がありません。次の方を好きになり、好きになってもらおうと決めたところです」
ジャン「次の方とは、私のことですか」
フロ「当たりです。でも、こんなわたしでも、よいのですか」
ジャン「わたしは祭りの籤《くじ》なんかでは、いつも外しているのに、今回は大当たりですから、とても運がよいです」
フロ「恋と祭りの籤は別物ではないですか」
ジャン「そうですね。でも、恋も、運がなくてはかなわないような気がします」
フロ「たしかにそうですわね。わたし、籤を引いたことがありません。それに、最近はお祭りに行ったことがないのです。本当は、ああいう所が大好きなのですが」

ジャン「今度、お祭りに行きましょうか。ご一緒に」
フロ「いいのですか。人がたくさんいるところに出かけても」
ジャン「もちろんです」
フロ「王子さまがお祭りに行かれても、よいのですか」
ジャン「いいに決まっています。どうしてだめなのですか」
フロ「いいえ。わたしも行ってみたいです」

ジャン「来月、わが国で、お祭りがあるのですが、来られませんか」
フロ「行きたい。ぜひお願いします。それは、何のお祭りですか」
ジャン「ようやく春になった祭りです。人々が火の上を飛んで祝います」
フロ「ぜひぜひ行きたいです。わたしも、火の上を飛んでも、よろしいでしょうか」
ジャン「それはだめですよ」
フロ「なぜ」
ジャン「火の上に落ちたら、大変じゃないですか」
フロ「わたし、落ちませんから」
ジャン「じゃ、こうしましょう。水をかぶるお祭りもあります。そちらではいかがですか」
フロ「少し寒そうですが、では、わたし、水をかぶります」
ジャン「では、私も、水をかぶりましょう」
フロ「ジャン・バスチャンもご一緒に、かぶってくださるのですか」
ジャン「もちろんです」

NA:
その夜、フロリアーナは思った。世界一不幸だと思ったすぐ後で、世界一幸せだと思う瞬間があることを。