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〇ディミトリン王国宮殿
ナレーション(NA):
ディミトリン王国、
第一王子のリカルド王子が15歳になり、その王太子即位の日である。
フロリア―ヌの伯母が、リカルド王子の乳母ジネットだったという関係で、伯爵家令嬢の4歳のフロリア―ヌは宮殿に招かれた。将来の妃候補のひとりである。
ジネット「リカルド王太子、こちらが姪の伯爵家のフロリアーナでございます。フロリアーナ、ご挨拶を」
フロリアーナ(以下、フロ)「フロリアーナです。どうぞよろしくお願いします」
リカルド「フロリアーナか。おまえはデブで、ちびだな」
ジネット「ほほほほ。まだ小さいからでございますよ。大きくなったら、それは美しくなりますよ」
リカルド「それは、どうかな」
ジネット「なんておもしろい王太子さまなのでしょう」
フロ「(小声で)ぜーんぜんおもしろくない」
ジネット「(フロに)リカルド王子はとても優秀で、国王も王妃からも、とても期待されているのよ。フロリアーナ、あなたはお行儀をよくして、リカルド王子のお相手として恥ずかしくないように、しっかりとお勉強するのですよ」
フロ「はい(小声で)あんなやつ、絶対にいや」
〇宮廷の庭
フロリアーナはパーティに飽きて、ひとり庭に出てきた。たくさんの美しい花があるが、中でも、白い百合が美しく咲いている。
フロ「白ユリは死んだママが好きだった花。こんな美しい白ユリを、ママに見せたかった(涙声)」
突然小さな子、ロランス王子が現れる。彼も太っていて、小さい。
ロランス(以後、ロラン)「その花、ほしいの?(ハサミを取り出す)」
フロ「ほしいけど、でも、切ってはかわいそうです」
ロラン「いいんだよ」
フロ「いいの?」
ロラン「そう。切ったら、またあとから別のユリが咲くから。きみは切ったユリを部屋にもっていって、なかよくすればいいし、庭のユリはまたきれいに咲くから」
フロ「頭、いいのねぇ。あなたはだれ」
ロラン「ぼくはロランス、リカルドの弟だけど、兄さんみたいに頭もよくないし、かわいくもない」
フロ「何歳ですか?」
ロラン「7歳。きみは」
フロ「わたしはフロリアーナ、4歳」
ロラン「好きなものはなに」
フロ「好きなものは、馬に乗ること、綿あめ、トカゲとカエル(くすくす笑う)」
ロラン「綿あめって?」
フロ「甘くて、雲みたいなアメ。市場に売っています」
ジャネット「王子さまは市場なんかには行かれないのよ」
フロ「あんなに楽しいのに。(王子に小声で)今度、こっそり持ってきてあげます。トカゲも」
ロラン「トカゲはいらないよ」
フロ「あんなにかわいいのに」
ロラン「かわってる」
ふたりが笑う。
フロ「わたし、ひとりっ子で、ずっとお兄さまがほしかったの」
ロラン「リカルドでなくて、ぼくでいいのかい」
フロ「リカルド王子はわたしのこと、デブでちびだって言いました」
ロラン「ぼくのことも、そう言ったよ」
ふたりで笑う。
NA:
ロランス王子とフロリアーナは気が合って、たびたび訪問し合うようになり、「ロランス」、「リアーナ」と呼び合い、一緒によく遊び、ともに育った。
フロリアーナは大人になったら、ロランス王子の妃になるのだと信じるようになった。
