…よし、服装オーケー、持ち物オーケー、髪型オーケー!
矢吹くんと付き合いはじめて初めての土曜日、矢吹くんがデートに誘ってくれた。
今までも矢吹くんと2人で出かけることはあったけれど、矢吹くんのことを少し意識しはじめてからは何となく断り続けていたので、こうやって出かけるのは久しぶりだ。
「あら?どこか出かけるのー?」
「ちょっとね!行ってきます!」
「夕方までには帰るのよ〜」
「はーい」
お母さんに矢吹くんと付き合いはじめたことはまだ伝えていない。折を見て話そうという矢吹くんからの提案だ。
家の門を出て右に曲がると、そこにはもう矢吹くんが立っていた。
「矢吹くん!早かったね」
「妃奈を待たせるわけにはいかないからね。彼氏として当たり前でしょ」
「ふふ、そっか」
「かわいいね、妃奈。服も髪も似合ってる」
「え〜?そうかな?ありがとう」
「じゃあ行こうか。そろそろバスが来るよ」
「えっ大変!急がなきゃ!」
「うん、行こう。でもその前に…」
キュッ。
「これ大事。妃奈の彼氏の特権」
「…矢吹くん、手繋ぐの好きだよね」
「ははっ、そうかなあ」
「まあいいんだけどさ」
「よし。じゃあ行こうか」
「うん!」
私たちは早足でバス停まで向かった。
* * *
デートプランはほとんど矢吹くんが考えてくれた。
私が買い物に行きたいと言ったので、近くにある大型のショッピングセンターに行くことになった。
「えぇ?!じゃあ矢吹くん、ほとんど寝てないの?」
「いやぁ、寝てないわけじゃないんだけどね。ただいつもより少し寝る時間が遅かったってだけだよ」
「ごめん、私のせいで…矢吹くんに全部任せちゃったからだよね」
「いいんだよ、僕が好きでやったことだし」
「ありがとう。今日は思いっきり楽しもうね!あ、でも疲れたらすぐに言ってよね!」
「はいはい。妃奈はまるでお母さんだなあ」
「もう!そうやってまたからかって!」
バスから降りてそんなやりとりをしながら歩いていると、いつの間にかショッピングセンターに着いていた。
「うーん、どこから行こうか?」
「そうだね…まずはお洋服見たいな!」
「オーケー。それなら3階にいいお店があるよ」
「すごい、よく知ってるね!」
「そうかな?さ、行こう」
* * *
「そしたらね、妃奈のお母さんがね…」
………わ、あのアクセサリーきれい!
私もいつかああいうの着けてみたいなあ。
「…妃奈?聞いてないでしょ」
「え、あ、いやごめん、ちょっと…」
「ふーん…?」
まずい、矢吹くんの話聞いてなかった…!
こんなんじゃ彼女失格だ、素直に謝るべきだよね…
「あの、矢吹くん…!ごめん、私…」
「はいストップ。妃奈、ちょっとここで待っててね」
「え…?」
…矢吹くん、怒っちゃったか。
そうだよね、いくら優しい矢吹くんでも話を聞いてもらえなかったら怒るよね。
「………な。ひな。妃奈!」
「えっ?」
「ほら、これでしょ」
矢吹くんの手の中には、私がさっきまで見惚れていたきれいなアクセサリーが入ったボックスがあった。
「矢吹くん、これ…」
「気づいてたからね?」
「うう、ごめんなさい…思わずきれいだな〜って見惚れてたら矢吹くんの話聞けてなかった」
ひどいよね…と落ちこんでいると、矢吹くんはやわらかく首を振った。
「知ってる。妃奈が何かに夢中になるとまわりが見えなくなることも、こういうきれいなアクセサリーが大好きなのも」
「それでも」
「いいんだ。これが『僕からの』プレゼントになれば、妃奈がアクセサリーを思い出すときに僕のことも思い出すだろう?」
「…っ!」
矢吹くんはこういうことをさらっと言ってしまうんだよなあ…
本当に、どこで覚えてきたんだろう。
照れくさくて、胸と頭の奥のあたりがじぃんと熱くなったけれど。
それよりも嬉しさのほうが大きかった。
矢吹くんからのプレゼントはもちろん嬉しい。けれど、矢吹くんがそこまで私のことを見ていてくれたなんて…
「…矢吹くん、そういうとこ!」
私はそれだけ言い残して、頭にハテナを浮かべる矢吹くんを置いて歩き出した。
歩きながら、私は矢吹くんからもらったネックレスを着ける。
すれ違う人たちは皆、私の顔を見ていぶかしげな表情をする。
なぜならそのときの私は、これ以上ないほど表情筋がゆるんでいたから。
矢吹くんとの初めてのデート。
矢吹くんからの素敵なプレゼント。
矢吹くんが私をよく知っていてくれたこと。
それだけで、私を有頂天にさせるには十分だったのだ。
* * *
「矢吹くん、今日はありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
「でも本当によかったの?これ、高かったんじゃ…」
「いいんだよ。それに僕、妃奈の為にたくさん貯金してるからさ」
「…?」
「ああ、いいんだ。今のは気にしないで」
小さくてあまり聞き取れなかった矢吹くんの言葉に、私は小さな疑問を抱きつつも頷いた。
「じゃ、早く家に入りな。お母さん心配するよ?」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
ガチャ。
「…妃奈?これは、どういうこと?」
「お、お母さん…」
玄関のドアを開けると、夜ごはんの支度をしているはずのお母さんが仁王立ちで立っていた。
もしかして、早速バレちゃった─────?!
矢吹くんと付き合いはじめて初めての土曜日、矢吹くんがデートに誘ってくれた。
今までも矢吹くんと2人で出かけることはあったけれど、矢吹くんのことを少し意識しはじめてからは何となく断り続けていたので、こうやって出かけるのは久しぶりだ。
「あら?どこか出かけるのー?」
「ちょっとね!行ってきます!」
「夕方までには帰るのよ〜」
「はーい」
お母さんに矢吹くんと付き合いはじめたことはまだ伝えていない。折を見て話そうという矢吹くんからの提案だ。
家の門を出て右に曲がると、そこにはもう矢吹くんが立っていた。
「矢吹くん!早かったね」
「妃奈を待たせるわけにはいかないからね。彼氏として当たり前でしょ」
「ふふ、そっか」
「かわいいね、妃奈。服も髪も似合ってる」
「え〜?そうかな?ありがとう」
「じゃあ行こうか。そろそろバスが来るよ」
「えっ大変!急がなきゃ!」
「うん、行こう。でもその前に…」
キュッ。
「これ大事。妃奈の彼氏の特権」
「…矢吹くん、手繋ぐの好きだよね」
「ははっ、そうかなあ」
「まあいいんだけどさ」
「よし。じゃあ行こうか」
「うん!」
私たちは早足でバス停まで向かった。
* * *
デートプランはほとんど矢吹くんが考えてくれた。
私が買い物に行きたいと言ったので、近くにある大型のショッピングセンターに行くことになった。
「えぇ?!じゃあ矢吹くん、ほとんど寝てないの?」
「いやぁ、寝てないわけじゃないんだけどね。ただいつもより少し寝る時間が遅かったってだけだよ」
「ごめん、私のせいで…矢吹くんに全部任せちゃったからだよね」
「いいんだよ、僕が好きでやったことだし」
「ありがとう。今日は思いっきり楽しもうね!あ、でも疲れたらすぐに言ってよね!」
「はいはい。妃奈はまるでお母さんだなあ」
「もう!そうやってまたからかって!」
バスから降りてそんなやりとりをしながら歩いていると、いつの間にかショッピングセンターに着いていた。
「うーん、どこから行こうか?」
「そうだね…まずはお洋服見たいな!」
「オーケー。それなら3階にいいお店があるよ」
「すごい、よく知ってるね!」
「そうかな?さ、行こう」
* * *
「そしたらね、妃奈のお母さんがね…」
………わ、あのアクセサリーきれい!
私もいつかああいうの着けてみたいなあ。
「…妃奈?聞いてないでしょ」
「え、あ、いやごめん、ちょっと…」
「ふーん…?」
まずい、矢吹くんの話聞いてなかった…!
こんなんじゃ彼女失格だ、素直に謝るべきだよね…
「あの、矢吹くん…!ごめん、私…」
「はいストップ。妃奈、ちょっとここで待っててね」
「え…?」
…矢吹くん、怒っちゃったか。
そうだよね、いくら優しい矢吹くんでも話を聞いてもらえなかったら怒るよね。
「………な。ひな。妃奈!」
「えっ?」
「ほら、これでしょ」
矢吹くんの手の中には、私がさっきまで見惚れていたきれいなアクセサリーが入ったボックスがあった。
「矢吹くん、これ…」
「気づいてたからね?」
「うう、ごめんなさい…思わずきれいだな〜って見惚れてたら矢吹くんの話聞けてなかった」
ひどいよね…と落ちこんでいると、矢吹くんはやわらかく首を振った。
「知ってる。妃奈が何かに夢中になるとまわりが見えなくなることも、こういうきれいなアクセサリーが大好きなのも」
「それでも」
「いいんだ。これが『僕からの』プレゼントになれば、妃奈がアクセサリーを思い出すときに僕のことも思い出すだろう?」
「…っ!」
矢吹くんはこういうことをさらっと言ってしまうんだよなあ…
本当に、どこで覚えてきたんだろう。
照れくさくて、胸と頭の奥のあたりがじぃんと熱くなったけれど。
それよりも嬉しさのほうが大きかった。
矢吹くんからのプレゼントはもちろん嬉しい。けれど、矢吹くんがそこまで私のことを見ていてくれたなんて…
「…矢吹くん、そういうとこ!」
私はそれだけ言い残して、頭にハテナを浮かべる矢吹くんを置いて歩き出した。
歩きながら、私は矢吹くんからもらったネックレスを着ける。
すれ違う人たちは皆、私の顔を見ていぶかしげな表情をする。
なぜならそのときの私は、これ以上ないほど表情筋がゆるんでいたから。
矢吹くんとの初めてのデート。
矢吹くんからの素敵なプレゼント。
矢吹くんが私をよく知っていてくれたこと。
それだけで、私を有頂天にさせるには十分だったのだ。
* * *
「矢吹くん、今日はありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
「でも本当によかったの?これ、高かったんじゃ…」
「いいんだよ。それに僕、妃奈の為にたくさん貯金してるからさ」
「…?」
「ああ、いいんだ。今のは気にしないで」
小さくてあまり聞き取れなかった矢吹くんの言葉に、私は小さな疑問を抱きつつも頷いた。
「じゃ、早く家に入りな。お母さん心配するよ?」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
ガチャ。
「…妃奈?これは、どういうこと?」
「お、お母さん…」
玄関のドアを開けると、夜ごはんの支度をしているはずのお母さんが仁王立ちで立っていた。
もしかして、早速バレちゃった─────?!

