「ねぇねぇ、二乃!次のライブ行く?」
「どうしよう…あんまりお金ない…」
「私は今回我慢する…」
小学校からずっと同じクラスの親友の美奈。
美奈は私のことを一番よくわかっていて、大人になっても友達って約束した大切な存在。
そして私と美奈はとある四人組の「歌い手グループ」を推している。
その名も…

「レインボーフラワー」

略して「れいふら」って呼ばれることが多い。
そして私の推しは、白色担当のらむねくん!
いつも優しい声をしてて、声真似が得意なんだ!
歌うときは低い声で歌っていてすごくかっこいい。
ちなみに美奈の推しは、黄色担当のるなくんで、元気いっぱいでかわいいって人気。
らむねくんは私を救ってくれた本当に最高の推し。
だから私はらむねくんが歌い手を辞めるその日まで絶対に推すんだ!!!
「二乃〜どうしよ〜。」
「でも私頑張ってお手伝いしていこっかな…」
「うぅ…じゃあ私も行きたいし頑張る…」
「また一緒に行こうね!」
推し活をすることは本当に幸せ。
推しの歌を聞いてるだけで幸せな気分になれるし、嫌なことも忘れられちゃう。
そのくらい私にとってらむねくんは大事な人。
「あ!塾いかなきゃ。」
「私もだ。行きたくないなぁ。」
私達の通っている私立聖花中学校は日本で一番偏差値の高い中学校って言われている。
だから授業についていくのが精一杯で毎日塾に通わないといけないんだ。
「じゃあまた明日!」
「うん!またね!」
美奈と別れて荷物を置きに一旦家に帰る。
家に帰ったらまずは推しの「歌ってみた」を聞きながら推しのSNSを見る。
「今日もらむねくん元気そうだな…」
私達オタクは推しのSNS投稿で推しの気持ちや状態を知ることができる。
だから急に投稿がなくなるとすごく心配になるんだ。
SNSを見ていたら塾に行く時間になったから家を出る。

「こんにちは!」
「こんにちは~」
塾に入って挨拶をすると先生が挨拶を返してくれた。
私の通っている塾は先生一人と生徒一人で授業を受けるので、わからないところが聞けてすごく便利だ。
私の担当の先生は二人いて、一人は金木先生!分からないところは何回も教えてくれる優しい先生。
そしてもう一人は…
「宿題やってきた?」
「はい!」
もう一人はバイトの大学生の天音先生。
少し冷たいけど授業がすごくわかりやすいんだ。
「ここが過去形で…」
天音先生は塾の女の子たちから人気。
いつもマスクをしていて、ミステリアスな雰囲気もあって。
でもマスクを取った顔を見たことがある子は一人しかいない。
その子は、「すごくイケメン」って言ってたけど…
気になるなぁ。
「…聞いてる?」
「は、はい!」
「ちゃんと聞いておいてね。」
「ごめんなさい…」
天音先生怒らせると怖いんだよね。
この間怒っていたとき、見てるだけでも怖かった。

「じゃあ宿題やってきてね。」
「はーい。」
三時間の授業を受けて、私はやっと開放された。
来年受験生になったらもっと塾の時間増えるのかな…
やだな…
「ただいまー!」
「おかえりなさい。」
家に帰ると、お母さんが帰ってきていて夕飯を用意してくれていた。
今日はカレーらしい。
「勉強はどうなの?」
椅子に座った瞬間お母さんが聞いてきた。
「うん。普通だよ。先週の校内テストも学年七位取れたし。」
「そう。良かったわ。学年末では五位以内に入れるといいわね。」
「うん。がんばるね。」
お母さんとした推し活をする約束。
それは毎月ある校内テストで三十位以内に入ること。
二年生の生徒は二百八十人くらいだから、その中の七位はかなり頑張らないと取れない。
でも推しのためには頑張ればそのくらいできるんだ…!
「ごちそうさまでした!」
ご飯を食べたら歯磨きをしてお風呂に入る。
そして宿題と予習復習をしたら…
「今日の動画見るぞ!」
毎日十時から十一時までは自由にSNSや動画を見れる時間にしている。
今日の動画もおもしろそう。
あ、らむねくんが配信してる。
嬉しいな…
らむねくんの声って本当に素敵。
でも声真似をしてるときの声もそのキャラクターに似ていて面白い。
いつか、直接お話してみたいな…

配信も終わってあっという間に十一時になった。
「もう寝なきゃ…」
ずっと夜だったらいいのに。
そして学校にいかなくても良ければいいのに。
「おやすみなさい…」
そうして眠りについた。

ピピピッピピピッ
「うーん…」
アラームと同時に目が覚める。
私は朝五時には起きている。
そして昨日勉強したことの確認や復習をしている。
そして七時半になったら朝ご飯を食べて家を出る。
「二乃おはよー!」
「美奈!おはよう!」
「昨日のれいふらの動画見た?」
「もちろん!らむねくん尊かった!」
「るなくんも尊すぎた…」
「それでさ…」
「うわまたあの二人推しの話してる…」
「ほんとオタクってキモい…」
「…」
「二乃?あんなの気にしちゃだめ。」
「うん…」
オタクをしていると、周りの人から悪口を言われることが多くなった。
美奈はあんなの気にしないっていってるけど、やっぱり気になってしまう。
でも美奈が付いてるから大丈夫。
私も美奈もめったに学校を休まないし一人じゃない。

「気をつけ。礼。」
やっと帰れる。さっさとバスに乗って帰って塾にいかないと。
バスに乗って自分の家に一番近いバス停で降りる。
そこまではいつもと同じだった。
そのまま家に帰るはずだった。
それなのに私は一番会いたくない人にあってしまった。
「あれー?二乃じゃーん」
「あ、濁くん…」
「おめぇ一人か。まぁオタクならぼっちがお似合いだな」
「そ、そうだね…」
濁くんは隣のクラスで学級委員をやっていて、先生の前ではいい人ぶってる。
でも彼の本性は…
「まじでオタクってダセーよな。」
「そ、そんなことないよ。」
可愛いオタクだってたくさんいるのに…
「特に歌い手オタクなんてさ。顔も名前も知らないやつのためになんでそんなに金出せるの?」
「それは…でもライブで顔見たもん!」
「どーせメイクだろ。」
「そんなこと…」
「じゃあお前道端でその歌い手とすれ違ったら気づくか?」
「それは…」
「じゃちょっと金くれよ。」
「や、やだ…」
「あ?やだじゃねーんだよ。ほら、金だせ。」
「やめて…」
「推しに貢ぐくらいの金があるんだろ?俺によこせ。」
「やめて…!」
「ふざけんなよ!」
ドンッ
「痛っ」
去年同じクラスだったときはもっと酷かった。
毎日のようにお金を取られて、なかったら殴られた。
もう渡すのしかないのかな。
そう思ったとき。
「君、何してるの?」
「あ?誰だおまえ?」
「天音、先生…?」
声をかけてくれたのは、天音先生だった。
「その制服、聖花中学だよね?」
「う…」
「僕が先生に連絡したら、君退学にならない?」
「は?」
「今のうちに謝っておいたほうがいいんじゃない?」
「…チッ」
舌打ちをして濁くんは走っていった。
「大丈夫?」
「は、はい…」
「じゃ、今日も塾遅れないできてね。」
「え、あ、はい…」
王子様みたい…かっこいい…
心がきゅんってなった…
って何考えてるの?私。
私にとっての王子様はらむねくんのはず…
なんだろうこの気持ち…

「それは恋だよ!」
次の日、私は天音先生の話をしたら、美奈にそう言われた。
「ちょ、美奈静かに…」
「ごめんごめん。でもそれは恋じゃない?」
「そうなのかな?」
「うん!だって私が優くん好きになったときと同じだもん!」
美奈は優くんという男の子に片思いをしている。
「らむねくん見つけたときとは少しだけ違う気持ち?」
「うん…らむねくん見るけたときはかっこいいって思ったけど、きゅんってならなかった。」
「じゃあそれは恋だね。」
「えぇ…」
ほんとに恋なのかな?まだ私にはよくわからない。
恋と推しの違いってなんだろう。
私にとって今までらむねくんが一番だった。
でも、それと同じくらい天音先生が気になる。
天音先生は好きな人いるのかな…