笑っていて欲しいのだと、幸せになって欲しいのだと、この気持ちを愛だと呼ぶのなら、恋だと仮定することが出来るのならば、間違いなく、これは相馬の初恋だろう。
「─謝ることなんてない。お前のおかげで毎日、楽しい。俺も生まれて初めて、年齢相応な生活をしている気がするし……愛に関しては、周囲がとても幸せそうに見えるからこそ焦がれるそれは、自分に当てはめると難しいよな」
「うん。難しい」
「俺の場合、両親が相思相愛と言えなかったからなぁ」
「?、そうなの?」
「ああ。それどころか、俺は母親に恨まれてた」
「……」
「既に終わった、振り切った問題だけどな。─今は何となく、要因がわかるし」
「……辛いこと、流れで話させちゃってごめんね。短慮だった」
「大丈夫だよ。周囲が心配するより、それなりに振り切ってはいるから。─でも、そうだなぁ。いつか、話を聞いて欲しいな。そして、お前の中の朝陽さんについても教えてくれ」
そう微笑むと、沙耶は目を丸くし、少し間を置いて、小さく頷いた。
黒橋家に着いて、沙耶を降ろした。
沙耶は鍵で、玄関の扉を開け、目の前で広がる静寂。
生活音すらしない空間に、相馬が
「今日、皆さんは?」
と聞くと、沙耶は「いないよ〜」と、答えた。
「いないのか?」
「うん。お父さんとお母さんは、海外?に行く予定が、カレンダーに書いてた気がする」
「大樹さん達は?」
「大樹兄と春ちゃんは出張で、勇真兄達は数日前から、県外の病院で仕事に─……」
「湊さん達は?」
「湊は里帰り、他は分かんないけど……。でもまぁ、よくあったことだから、平気。寝てれば熱も下がるだろうし」
額に手を当てた沙耶は、自分が発熱したことを認めて、にっこりと笑う。
─が、だからと言って、「はい、そうですか」と置いていけるわけもなく。


