「……前から思っていたが、君はズルい」
「フフフッ、甘える強さを、君がくれたからね」
そう言って、身を任せる姿は本当に互いを想い合う優しさを孕んでいて、相馬は微笑んでしまう。
「私も君の名前を知りたい。その名前で呼んで、そのうえで、彼と深く話をしたい。きっと君はどんな過去でも、私を愛してくれるだろうけど。私がそれに耐えられなくなった時、君には私を捕まえて欲しい。いつかみたいに」
「……」
「前に話しただろう?実験施設で過ごしたと。物心ついたあと、ぼんやりとある記憶だけど。─私も恐らく、あの施設での被検体だった。それをハル達に助けられて、ハルの妹になったんだ」
自分の頬に触れる、櫂の手に頬を寄せながら。
彼女はどこか泣きそうな顔で、甘えていた。
─その愛情を失うことを恐れるように。
「私はこの幸せを失わないためなら、どんな事でも出来る。結局、どこにいても苦労はするんだ。─だったら、私は貴方の傍がいいよ」
櫂は耐えられないというように、彼女を抱き寄せた。
彼女が背中に手を回すと、
「本当、敵わん……」
そう呟いて。
「神宮寺(ジングウジ)」
「うん、」
「……神宮寺、慧(ケイ)」
そっと、耳元で囁き、彼女の肩に額を乗せる。
「ケイ」
彼女は嬉しそうにそう返すと、
「フフフッ、ケイ、愛してるよ」
と、ぎゅっ、と、慧に抱きつく。
「ああ。僕もだ」
……何故だろう。とりあえず、ここにいるべきじゃない気がして、相馬は焚き付けた責任もあるので、気配を消して部屋を出ることにする。
(大切だと思ったが、まさか、言いたくない理由に、人間らしい理由を持っていたとはな……)
失礼な見解かもしれないが、櫂改め慧は本当、それくらい浮世離れした幼なじみだった。
大切な人を見つけて、地に足をつけて生活出来ること。
それは本当に幸運で、奇跡で、運命で。
……相馬が嫌われているものばかりで。


