「どうしてそんなに嫌がるんだ?分籍でもするのか?家族仲は悪くなかっただろうに」
「……苦労を、させる」
「……」
ポツリ、と、漏らされた一言。
相馬は思わず、黙り込んでしまった。
「……勿論、僕には関係ない。僕はこれからも好きに生きて、それを許される立場だ。だが、許されないこともある。ケジメとして、やるべきことも多くあり、僕の妻という立場は自由な彼女を縛り付け、苦しめる」
「それは勿論、覚悟の上で」
「それでも、“もし”を考える。─永遠などないのだから」
ここまで拗らせることになったきっかけを知っているが故に、相馬は何を言えば良いのか分からなくなった。
こいつは次男だ。─表向きは。
本当はおじさんとおばさんの子ではないことを、今も気にしていたのかと思いつつ、そういえば、甘え方がわからなくて本ばかり呼んでるんだと思うと、こいつの兄が言っていたな〜と思ったり。
(まさか、あれから20年近く経ってるし、慣れたと思っていたのに)
生まれながら、神童と呼ばれた。
そんな彼にとって、『母親に捨てられた』という現実記憶からは、どうしても逃れられない。
どうしたもんかと悩んでいると、彼女が。
「……君と結婚したら、私はなんて名乗るの?」
と、微笑んだ。
「教えて欲しい。貴方と一生、一緒にいたいの。それを、貴方は赦してくれるんでしょう?」
ニコッと、笑う彼女は。
「私は、茉白だよ。今は、黒宮茉白」
相馬にも視線を投げながら、そう告げた彼女はすぐに彼に視線を固定すると、優しい声で、話し出す。
「君に名前を呼んで貰えると、茉白って呼ばれると、嬉しくて、胸がきゅうってなるんだ。君に触れられていると、人間になれた気がしたあの日みたいに。赦されて、甘やかされて、ぎゅうって抱きしめられて。心底大切にされて、愛されている自覚があるから、君に同じものを返したい。……ダメかな?」
……それは彼女の本心で、告白で、プロポーズだ。


