世界はそれを愛と呼ぶ




「─兄さんは、優しいね」

「は?」

「優しいよ。本当に。……さぁて、何からするかね〜」

水樹は言いたいことを言い切ると、にこやかに微笑んで、部屋を出ていく。

その背中を不思議そうに眺める相馬を心配そうな顔で眺めながら、氷月は近付いてきて。

「兄さん」

「ん?」

相馬は氷月に、微笑みかける。

「どこにも、行かないでね」

「……ん?」

─氷月も言いたいことを言って、去っていくタイプらしい。残された相馬は目を瞬かせて、首を傾げる。

しかし、結は見逃さなかった。
水樹が出ていく寸前、小さく呟いた一言。
そのタイミングで氷月が相馬に話しかけたのは、その言葉を聞かれないためだろう、ということ。

『俺は俺の大切なもの以外、どうなっても良いなぁ』

─それは即ち、当主の器ではないのだろう。
それは本人も理解していて、だからこそ、兄を尊重している。しかし、兄の人ならざる姿は彼らに恐怖心を与えてしまうのだと思う。

『私が怖いか?結』

美しく、舞うように踊る、姉のような存在だった彼女が、特に何も遺さず、ある日突然、消えてしまったあの日に感じた喪失感を思い出し、結は胸を押さえる。

(最愛が、いつか誰かのために身を滅ぼしてしまう。そんなの、認められない)

あの喪失から積み重ねてきた感情を抱いて、結は自分達の役目確認の為、相馬に話しかけた。