世界はそれを愛と呼ぶ




泣き崩れる娘─響(ヒビキ)を抱き締めて、その時に感じた心の揺れが、結が人としてやり直すきっかけとなる。

その娘は今は立派に成長し、二児の母に。
そして、御園を支える家の当主として活躍している。

『多分、そう遠くない未来で、私達の長が産まれる』

ある日、彼女─柚希はそう言った。

『大きすぎる力を前に、誰もが怯えを抱くでしょう。でも、結、あんたは大丈夫なんだから』

『何を根拠に?』

『だって、私といても平気そうじゃない?』

だからなんなんだ、って話だったが、その時に話していた者が本当に生まれ、既にこんなにも大きく成長した姿を見ると、自分も長く生きたもんだなと思ってしまう。

「─で、全ての長が、そこで欠伸してる黒宮結」

唐突に呼ばれて見れば、千春と目が合った。

「何?」

「何、じゃなくて。組織の説明」

「ああ……一応、トップで〜す」

ひらりと手を挙げて、また突っ伏してみる。
千春の「おい」という声が聞こえたが、無視してみる。

因みに話し方を参考にしているかつての仲間がいるが、その口調の真似は間違ってるのかもしれない。

(………………?)

「─ねぇ、千春」

「うわっ、何」

「近い内の、高校への編入者調べて」

「なんだよ、いきなり」

「何となく」

「はぁ?」

昔のことを思い出したからだろうか。
急に引っかかる。…………柚希?

『その可能性にも気付かないなんて、あんたさぁ〜』

昔、何度も言われた台詞。
普通ならば、気づけない現象。

「……」

結は徐に懐からナイフを取り出し、自分の手首に這わせる。

「はっ!?おい」

唐突なことに慌てる千春。微笑んで制止し、溢れる血。

「1、2、3……」

切った瞬間から数えて、「10」と結が口にする時、傷は血溜まりだけを残して、消え去った。

それを見ていた、全ての長は驚きもせず、何かを察したかのように静かな目で、結を見ていた。