世界はそれを愛と呼ぶ



「……ごめん、先生。茉白返す」

「いや、僕はそこまで狭量じゃないが」

困惑顔。ここに来て、多くの表情を出来るようになったんだなぁ、なんて。

「ありがとう、先生」

「何がだ」

「茉白をすくい上げてくれて」

「……それは、こちらの台詞だ。誰かと一緒にいる温かさを、教えてもらった」

櫂はそう言いながら、そっと彼女の額にキスをする。
その姿を見て、普段は冷静な氷月も目を見開いて震えるほど、驚いている。
仕方が無いことだし、気持ちは分かるが、面白い。

「茉白は、治るか?」

「もちろん」

「櫂がいるから、大丈夫だよ」

一気に和やかな雰囲気になり、長年の問題が解決したのかと眺めていると、

「─こんにちは」

と、長い黒髪を背に流し、三つ編みでまとめた黒宮家当主である、黒宮結(ユイ)が話しかけて来た。

「いい?」

相馬が微笑んで頷くと、彼は微笑して、椅子に座った。

「ここにいたんですね」

「知っていたのに、白々しいね」

「連れ戻す理由は無かったので」

「俺、役立たずだった?」

「まさか。─少しは、人間になったようで」

「お陰様で」

─彼とは、長い付き合いである。
と言っても、幼い頃に何度か会った程度だが、その際の彼はいつも死んだ目で、血だらけの服で、何も知らない無知の、青年だった。

背中を預けていた存在が死に、その遺した娘が御園の分家を興したタイミングで行方不明になった。

キリングドールと呼ばれた彼はここで、人として生まれ変わったという話は聞いていたが、数年ぶりに会った彼の瞳には微かだが、きちんと光が宿っていた。

「健斗さんとの相性は?」

「全然、問題ないよ。警備の面を司る家の当主に、僕なんか選んだ最初は、頭悪いのかと思ったけど」

そう言いつつも楽しげな姿に、今は亡き彼の相棒も笑っていることだろう。