『貴女のせいで、みんな、死んでいくわね』
─最初の犠牲者は、義兄の父親だった。
何も知らなかった沙耶は愛してくれる義兄が大好きで、実の兄だと思っていた。
我が家は少し特殊で、沢山の大人がいて、実際の両親は仕事が忙しかった関係で、いつも遊んでくれたのは、平岡朝陽(ヒラオカ アサヒ)という男性だった。
彼はお母さんの双子の妹であるアイラの夫であり、護衛を務めていて、お父さんとお母さんが留守の間、家を守ることが仕事だと言っていた。
外で働くことが、“とある事情”でできないと言っていて、いつも遊んでくれたアイラと朝陽。優しくて、暖かくて、大好きだった。両親がいなくても、毎日幸せだった。
寂しい日もあったけど、アイラも朝陽も抱き締めてくれたし、本当に大好きなふたりだったから。
沙耶には、ふたりの兄がいた。
ひとりが、アイラと朝陽の息子である大樹(ダイキ)兄。
朝陽にそっくりな大樹兄は、朝陽のいう“とある事情”で、外では沙耶のお父さんを『お父さん』と呼んでいた。
そして、黒橋大樹と名乗ってた。朝陽は平岡、なのに。
─それが何故なのか、幼い私にはわからなかった。
何も知らない、甘やかされて愛されていた沙耶は、“死”というものを正しく理解していなかった。5歳だったから、人の死に触れたことがなかったから、そう言えば、大人の目に沙耶は可哀想な女の子に映るのだろうか。
父を失い、泣く実の息子が。
夫を失い、壊れる妻がそこにいたのに。
─誰も、沙耶を責めなかった。
沙耶がふたりを『デートさせよう』なんて言わなければ、お留守番中に発作を起こさなければ、ちゃんと大樹兄達と話す努力をしていれば、“約束”を破っていれば、朝陽は死ななかったかもしれない。
『沙耶、もし、誰かに俺と親子かと聞かれたら、うん、と、頷くんだぞ』
『どうして?さやのおとうさん、あさひじゃないよ』
『うん。沙耶のお父さんは、健斗だけだよ。でも、この約束は特別。俺をパパだと言うんだ。1回だけでいいから』
……その意味がわかっていれば、わかっていれば、多分、ううん、間違いなく、貴方は死ななかったのでしょうね。
でも、5歳児には難しすぎた。外を知らない5歳児には難しすぎて、素直に約束を守ってしまった。
それからすぐあと、沙耶が提案した『デート』中の交通事故で朝陽は死んで、アイラは生き残った。
トラックに突っ込まれて、朝陽もトラックの運転手も即死だったと聞いた。


