「ところでさ」
「ん?」
「これ、何作っているの?」
「なんでも良いけど……今の段階からなら、パスタかパンに合うおかずになるかもな」
トマト缶を開け、鍋に入れる。
「どっちがいい?」
「え、じゃあ、パスタ。何となく食べやすそう」
「了解」
─相馬の料理は、完全に息抜きのひとつ。趣味である。
人を信用出来ない日々の中で、料理をするようになったのは、自分で自分を守るため。
近年は、 氷月が料理にハマったので、相馬のご飯は全部彼が作ってくれていたが、こうして各自の時間を持つようになった今年は相馬もまた、自分で料理する機会が増えることだろう。
ある程度の下準備を終えた後、あとは煮込むだけ。
その状態になると、沙耶は大人しく見るだけになった。
「……魔法みたい」
麺の湯切りを終え、ボウルに移す作業をしていると、沙耶がそう呟く。
「え?」
「フフッ、魔法みたい、と思って」
楽しそうに笑う沙耶は、いつもに比べると、すごくテンションが高く見えた。幼なじみと再会したからか、初めて料理の体験を出来たからか、真偽は謎だったが、本人が楽しそうならば良いと思っていた。
─事件?が起こったのは、食事の後。
後片付けをした後、沙耶はソファーで寝落ちした。
座っていた短時間で、眠ったらしい。
身体が痛くなるといけないと、顔を覗き込むと、彼女は震え、頬は濡れている。
声を殺すように怯えるその姿は、夢見が悪いのだろう。
ホットタオルを作り、そっと拭くと、何となく、彼女の身体から力が抜けた気がした。
起こすのも可哀想だし、寝かせてあげようと、相馬は沙耶を抱き上げ、寝室に連れていく。
ベッドに寝かせ、布団を被せると、彼女は自然と身体を丸め、自分を守るように丸い体勢で寝息を立てる。
あまりにも疲れそうな体制に、大きく長いクッションを近くに置くと、自然とそれを巻き込んで、
「ごめん、なさ……」
また泣きながら、誰かに謝っている。
そんな彼女の濡れた眦を拭いながら、沙耶の手に触れ、温もりを分け合う。
『沙耶は幼い頃、泣き虫でね。すぐ泣いて、笑って、自分の感情に素直な子だった。父さんが死んで、家庭が事実上の崩壊をするまでは……甘えることが上手な女の子だったんだ。そして、それを俺たちが出来なくした。その責任があって、だから、代わりに外で甘やかしてあげてくれ』
大樹さんは後悔を口にしながら、そう微笑んだ。
未だに残る、家族間での不調和。
あの街の中で昔起こった事件。
健斗さんのこれまでの人生。
フィーの発言。
……沙耶を狙うもの。


