世界はそれを愛と呼ぶ




何となく、手を伸ばす。頭を撫でると、彼女はくすぐったそうに微笑みながら。

「なあに?」

「んーん」

沙耶の頬に触れながら、相馬が思い出すのは、数日前のこと。

『お前、黒橋の娘との距離感、おかしくないか?』

『そう?』

『話を聞いた限り、距離の詰め方がおかしいと言うか……いや、番ならばそういうものかもしれないが、彼女自身もお前を変だと思わずに受け入れるんだよな』

薫の疑問に、相馬も不思議と思うしかない。
沙耶は怪しんでもいい相馬の存在を怪しむことなく、素直に受け入れ、安心できる存在と認めている。

どうしても大切な人を巻き込むかもしれないと、気を張り続けてきた沙耶は今も家の中で緊張する癖が抜けないらしく、表情が固い日があるため、何かと相馬は黒橋家の人々に沙耶の件でお願いをされることが増えていた。

彼ら曰く、相馬と一緒にいる時は彼女の気が抜けている気がするらしい。

沙耶が番と本能が認めている以上、嬉しいと思っている自分はいる。が、何故、彼女がそうやって緊張せず、気を抜いていられるのかはわからない。
相馬の本能につられてしまっているのだろうか。

「……さ、ご飯作るか。何にしようかね」

最後にくしゃくしゃと頭を撫で、キッチンに向かう。

「手伝う」

「包丁、触ったことあるのか?」

「それは、ない、かな……死にそうだから、禁止で……」

目を逸らす沙耶。
そこまでされるほど、すぐに死んでしまいそうなくらいに弱っていたのだろう。

簡単に生命を断てる凶器は、取り上げておくに越したことはないという判断だったのだろう。

「……俺と一緒の時は、触ってみるか?」

「え、良いのっ?」

興味津々な顔から、料理には興味があるのだろう。
でも、今の状態ではきっと、彼らは沙耶に凶器を与えてあげられないだろうから。