世界はそれを愛と呼ぶ



捲し立てるような早口でも、ユイラさんをなだめていた健斗さんはある程度聞き取ったのか、

「藤島雷紀の継母なら、黒田グループの令嬢か」

と、呟いた。

その件に関しては、相馬の頭にも入っている。
各名家の情報は基本、頭に入れておかなければならない。
滅んだ黒田家とかならまだしも、藤島家は現存しているので、尚更、相馬の把握対象である。

「そうですね」

相馬はため息をこぼし、西園寺麗良さんが言った『諸悪の根源』の年齢を考える。
─どう考えても、生きている確率は低い。
百の声を聞く年齢で、いくらなんでも……そう思う一方、話の中に出てきた、“実験”。

相馬は自分の考えを整理するためにも、簡易的にまとめて、日本語で伝えた。日本語の聞き取りは出来るフィーは、相馬の話に間違いは無いことを確認すると、

『元々、沙耶のひいおじいちゃんのことが好きだったんだって。その、黒田さん……でも、彼はひとりの女性を凄く愛していて、誰からも愛される食堂の美人さん。麗良さんの自慢の親友。麗良さんと彼とよく3人で遊んでいたと聞いたの。沙耶には話したけどね、消された柏原家はそんな食堂の美人さんのお母様と繋がりがあって、姉妹仲が悪くて関係はなさそうだけど、従姉妹同士なんだって。あ、あとね、』

『待て待て待て待て』

怒涛の如く、思い出す順に話していくフィーに思わず突っ込むと、彼女はきょとん顔。

『何故、そんなに詳しく知ってる。少なくとも、80年以上前の話だろう』

『そうだけど……ボスも麗良さんも、生き証人だし?』

『いやいやいや……藤島雷紀の父親の名前は』

『藤島紀一(キイチ)でしょ?』

『その妻は』

『麗良さんの親友の、華月妃(カヅキ キサキ)さん!』

『妃さんを、黒田さんは恨んでいたと?』

『麗良さんは、そう言う。実際、色々といじめがあったみたい。叶わない恋だと分かっていても恋焦がれていた上、妃さんは強くて優しくて明るかったから、両親含め、誰からも愛されたのに反し、黒田家は冷めきって……』

『だから、愛されたかった?』

『麗良さんはそう考えてた』

名家あるあるだ。
名家は資産がある代わり、そういう暖かいものとは無縁の生活に陥る可能性が高い。

それなりの社会的地位を持ちながら、黒橋家のような家庭は珍しく、同時に、御園家もなんだかんだ暖かさが残っているあたり、すごいなと感じたり。

『この情報を把握しているのは、麗良さんだけか』

『ん〜?あと、ボスもだよ。ヴィンチェンツォ……ヴィーって、麗良さんは呼んでるんだけど、勿論、彼も知ってるよ。紀一さんとは親友だったし、こちらに留学にきた時、気安く話しかけてくれたんだと。それから4人で一緒にいることも増えて、その関係でヴィーさんは麗良さんに惚れちゃったって……』

『……』

イタリアのマフィアともなれば、そのボスたる男の最愛を隠すことは容易だろう。
だから、西園寺麗良の存在は不明のまま、亡くなったとさえ思われていた。

しかし、本当にこんな事が可能なのだろうか?
沙耶の一件がなかったならば、その話は過去の話として、二度と甦らなかったのだろうか。

相馬が考え込んでいると、フィーが一枚の写真を差し出してきた。それは、麗良さんから貰った写真。
複数ある1枚だと言う写真は、どこか色褪せていたけれど、写真に映る2人の女性は幸せそう。

─そして、それは。