(ある意味、沙耶の隠す技術は健斗さん譲り……)
使い方によっては、類稀なる才能だろう。
しかし、今回に限っては、それは悪手だった。
「藤島さんといえば、健斗さんが面会を嫌がって、俺が会いに行く取引先の……」
「……アイラとユイラの父親と言えど、嫌いなもんは嫌いや。かつての上司やけどな」
珍しく、人を嫌う姿を見せる健斗さん。
基本、嫌いな人間は存在ごと無視するタイプだから、本当に珍しく、子どものようなわがままに、
「それは、ユイラさんが捨てられたから?」
と、大樹さんは問うた。
ユイラさんの調子を見ると、とても安定しており、それはユイラさんの居場所は黒橋家であって、その生家ではないからだろう。
大樹さんも悩みながら口にした疑問。
ユイラさんは大樹さんに微笑みながら、「大丈夫」と告げて、健斗さんを見上げた。
健斗さんは悩みつつも、ため息をついて。
「……そもそも、あの人─藤島雷紀(ライキ)と出会ったのは、とあるパーティだった。父親とのいざこざを終えた後、特にやることが無くなってしまった俺に、雪(セツ)さんが『付き合え』と、連れていかれたんだ」
雪さんの苗字は、焔棠(エンドウ)。
この国の裏社会のトップとも言える極道、焔棠家の当主であり、焔棠家をその地位まで押し上げた。
既に還暦に手が届きそうな年齢だが、老いを一切見せず、妻を溺愛し、家族に囲まれている。
そんな彼は腐っていたという健斗さんを拾い、生き抜くための術を与え、行いの代償を、その覚悟を、それらの何もかもを教え込まれた、本当の親子のような存在。
「そこで出会って、スカウトされた。やることがないのなら、是非、と。そうして、会社に入って、様々な知識を得ているうちに、数年……気づけば、彼から娘を紹介されるほどになったが、あまりにも流れがおかしすぎる。一人娘を大切にしていると聞いていたのに、パーティで出会った数年目の男に娘を任せようとするなんて、あまりにも流れが出来すぎているだろう。しかも、当時、アイラはまだ法的に結婚出来ない、その上、中学生だった」
「それは……」
「法的にアウトだろ?本気で何を言ってるんだろうと思い、裏で調べたら、アイラには護衛がいた。その護衛とアイラは想い合っていて、両片想い状態。藤島さんに聞けば、身分的に釣り合わないと激昂した。つまり、ふたりを引き離すために選ばれたのが、俺だった。けど、俺も馬に蹴られたいわけじゃない。だから、護衛─朝陽の気持ちを確認する為に、街中で奴に取引を持ちかけ、顔を合わせた瞬間、泣き崩れたアイラにも話して、法的に結婚できる年齢まで共に暮らす、アイラの護衛の為に朝陽も引き取る。藤島さんにはそう告げたんだ」
その時、朝陽は引き止められることなく、藤島家から解雇通知を渡されたらしい。
元々孤児で、藤島さんに引き取られた朝陽は彼を裏切ることは出来ないと思い、最初は健斗の提案を断った。


