世界はそれを愛と呼ぶ




「憧れ、かもしれませんね。黒幕像は分からないし、今もその黒幕が存命しているかはギリギリの状態ですが。あくまで、この因縁に沙耶は関係がない。たまたま、ここに生まれてしまっただけの娘ですから。敢えて聞きますが、ユイラさんは実の父親と会ったことは?」

「、?、ないわ。だって、私は捨てられたもの」

質問の意図が分からないというように、彼女は首を傾げた。

「私は捨てられて、施設で育った。そして引き取られた先で、地獄を経験した。その地獄で逃がしてくれた人がいたから、私は今、健斗のそばにいるの」

「今更、それがどうした。お前も知ってるだろ」

「ええ。─同時に、その父親が誰かご存知ですか?」

「勿論。健斗が教えてくれたもの」

頷くユイラさんとは別、大樹さん達は心当たりがないらしく、首を傾げていた。

「藤島グループの、代表取締役でしょ?」

「そうですね。その人が、ユイラさんとアイラさんの父親であり、大樹さんと沙耶の祖父です」

相馬が認めて振り返ると、大樹さんは目を瞬かせていた。
大樹さんの母親であるアイラさんは、ユイラさんの双子の妹だから、もちろん、父親は同じ。沙耶と祖父も同じ。

そして、そんな藤島グループは歴史の長い名家。
建設業界では有名であり、黒橋家はその業界の端で細々と経営している。

もっとも、黒橋は建設に関しては街興しの際に作った団体が会社という形に発展しただけであり、彼は他にも商社を経営し、海外に飛んだり、未来ある若者の為に医療系の研究施設を作ったところ、その学生が特効薬を開発したかなんかで有名になり……と、まぁ、なんでも面倒を見て自由に生活していたら、多くの会社を纏めるオーナーとなってしまった健斗さんは正直、本業は何かと問われても、本人も首を傾げるような立場だ。

街興しも国の失態を完璧に片付け、上回る制度で充実させ、そういう活動の積み重ねが黒橋家を強固なものに仕上げてしまった。

その為、時折、黒橋家の活動を害そうとする不穏分子が生まれたとしても、黒橋家の要にたどり着く前に処分されてしまう。

黒橋家が治めるこの街には、警察になりかわる組織があるため、健斗さんの耳に入る頃には跡形も無いことが儘あるらしく、だからこそ、沙耶の件も広まることがなかったのだろうが。