世界はそれを愛と呼ぶ



「俺の記憶が正しければ、健斗さんはどの学校にも属していない。言わば、学校に通わずに育ってきたはずです。それこそ、ユイラさんも、ですが」

相馬が確認のため、視線を投げると、健斗さんは頷いた。
それは肯定であり、やはり、相馬の見解はあってるのだろう。そんなことが本当にあっていいのか、と、思ってしまうが、有り得てしまっているのだから、仕方ない。

「ユイラさんの事情は存じ上げませんが、健斗さんの場合、それが意味するものはひとつでしょう。恐らく、戸籍が無かったんです。奈櫻さんも、健斗さんも。─所謂、不器用な愛情が、二人の人生を閉じ込めた」

「戸籍が、ない……、」

「そんなことありえるの?─あ、でも今は」

「今はありますよ。会社経営していますし、何より、彼は父親との死別後、極道の頂点たる焔棠(エンドウ)家の当主に拾われ、育てられています。その際に作られたはずです。まぁ、焔棠家が出来ることは、うちでも出来るので、俺の伯父が動いた可能性もありますが、裏の世界では戸籍がない子供などゴロゴロいる為、その子達を養子縁組として、極道が引き取る例はよくあります。その道で動いたならば、適当に自分の子供にでもして、そこから健斗さんが分籍すれば、“黒橋健斗”は元々存在したことになる」

かなり強引な手段だが、出来ないことは無いはずだ。
そもそも、御園も焔棠もそれが容易に出来るために、パイプは作ってある。国に従うフリをしているが、実質、いつでもひっくり返せるだけの力はあるから、国がこちら側をいつも警戒しているのだ。
─不可能なんてない。少なくとも、今は。

「─ユイラの戸籍は、俺と結婚する時に作ったよ。同じようになかったからな」

「やっぱり」

「そっちの方が、大人は“都合が良かった”んだろうが、一緒に生きていく上では必要なものだ。─まぁ、俺達の人生で運が良かったといえば、病院に通うほどの病気や怪我をしなかったことかな」

そう軽く笑っているが、事実は違う。
それだけの怪我をしても、病院に行かせて貰えなかった、が正しい。

御園家も家で出産するし、家で怪我の処置はする。
よっぽどの大きい怪我などは勿論、病院の特別病棟、特別室などを使い、限られた人員の中で治療をするが、大抵は全部、家の中で家が抱える主治医が処置する。

一言で言えば、暗殺防止だ。
だが、そういう決め事を利用して、苦しめる親もいる。

ユイラさんはその良い例であり、健斗さんは家の主治医繋がりで、勇真さんの父親である親友と出会ったと昔、話していた。