世界はそれを愛と呼ぶ




「─けど、母は早くに死んだ。まるで、呪いのように。父の家業のせいで、交通事故で死んだ。父はあまり俺に近づかなかったから、俺にとっては、母が全てだった。父はその時ですら、俺に会いに来なかった。俺も、会いに行かなかった。父を憎んだ。父が母を愛さなければ、拒絶していれば、例え、自分は産まれてこなかったとしても、母はそんな最期を迎えなかっただろうから。俺は母の最期の姿を知らない。事故で、見ていられない姿になったんだろう。でも、当時の俺は父を名乗る男が全部決めることを許せなかった。
─まぁ、歳をとって、ユイラと出逢って、沙耶が産まれて。こうして家族が増えて、今は、もし、会いに来ていたら、あんな最期は無かっただろうなと思うけど」

ユイラさんとは出会う前の話。
─健斗さんの父親で潰えた、極道という家業。

健斗さんは建設業など、違う方面で家を発展させ、今がある。─その裏側では、昔の仕事もしているけど。

「後悔しているか、と聞かれれば、していない。今もクソだと思っているし、壊れなければ、あの人は自分を保てなかったのだろう。いや、もう保てていなかったんだろうな。だから、殺した。あの瞬間、あの人は言ったから。『これで漸く、奈櫻に会える』─それが、全てだ」

「……」

「特殊、と、言われれば、特殊かもしれない。誰の目にも触れさせないよう、父は母をひとりで外出させなかった。失うことを恐れていた。母は『不器用なのよ』と、微笑んでいた。父は自分の存在を憎んでいて、母はそんな父を愛していて。母が死んだ日は、父の誕生日だ。そして、俺は父よりも母に似た顔をしている。─気持ちは、嫌でもわかっちまうんだ」

健斗さんはまた深い溜息を零し、ユイラさんに触れる。

「最愛が、何よりも憎む自分の誕生日に死ぬ?自分の家業のせいで?しかも、自分の誕生日プレゼントを極秘で買いに行った帰りに、だ。─母は、父を愛していた。父も、やり方こそは間違っていたが、母を愛していた。だから、監禁もしていた。二人の愛を否定するつもりは無いが、母の死後、俺を全力で殺そうとしてきたことは許していない」

─健斗さんは父親を殺した。
それは嘘偽りのない真実で、憎悪は間違いなくあった。