世界はそれを愛と呼ぶ




「……まさか、あのクソ野郎」

ボソッと呟いた、その言葉。
彼の両親がどんな関係だったかは知らないが、ふたりはすれ違ったゆえ、最悪な愛の結末を迎えたと聞いている。

「何があったんですか。健斗さんと、彼の関係は知っていますが、それ以外は」

「……端的に言えば、いや、ん〜、柏原家は普通の一般家庭だ。平凡な生活を送っていた、なんてことのない幸せな一般家庭。母は、柏原奈櫻(カシワバラ ナオ)は、そんな家で普通に育った、普通の娘だった。そんな母の母は近所でも有名なくらい、美しかったと言っていた。つまり、俺の祖母だな。でも、美人薄命という言葉のように早くに亡くなり、その後は父親─祖父とふたりで静かに暮らしていたそうだ」

ゆっくり、と、語り出される話。
フィーに聞いた話だと、柏原家が繋がるそうだ。
怖い話だが、沙耶の母方の曾祖母の血縁に。

「しかし、祖母の容貌を受け継いでいた母は多くの人間に求婚されるようになった。その時代、女性は良妻賢母が当たり前の時代であり、しかも、田舎の、有権者が集まる街の中に暮らしていたそうで、一般家庭は特に目立つ。そんな家庭に人が振り返るという、娘がいる。しかも、同じく街中には、今で言うアイドルのような美少女がいる一般食堂もあったらしく、勿論、そこに通いつめる半数は有権者。多くの人間が、彼女達を手に入れようとしていた……と、倭(ヤマト)、かつてのクソ野郎の右腕に聞いた」

クソ野郎、というのは、彼の父親を指す。
健斗さんを殺そうとするほど、精神的におかしくなり、最終的に健斗さんの手で、その生を終えた─……。

「勿論、本人は知る由もない。母の自由を願う祖父は、母に強制することなく、母の選択に任せた。
母はあの時代には珍しく結婚し、良妻賢母となることを求められることが苦痛で、逃げ回っていたらしい。
そんなある日、祖父が何者かに殺された。─父親が娘に、母に婚姻を強いれば、あの時代は従わざる得ない時代。それをしない祖父に恨みを持った犯行で、犯人はと同じ街中の男によって捕まえられ、母は自分の容姿を憎んだ」

「まさか、それが」

「ああ。クソ野郎─俺の生理学上の、父親だな」

ハッ、と、健斗さんは鼻で笑う。
本当に憎悪しているのだろう。昔聞いた時、『今すぐ全身の血を抜いて入れ替えたいくらい嫌い』と、キラキラとした笑顔で話していたことを覚えている。