世界はそれを愛と呼ぶ




「……さぁ、今日は寝ましょう。子守唄を歌ってあげる。おいで、一緒に寝よう?」

─……フィーは、泣かない。
フェリーチェは、泣くよりも笑うのだ。

その名に恥じぬ、少女として。
【幸せ】を冠する、ひとりの女性として。

「…………フィー」

「なあに」

「ごめんね」

「あら、どうして?」

「………………ありがとう」

沙耶は弱いから、泣いてしまう。
ぼろぼろと、相馬に抱き締められてからおかしい涙腺は今も簡単に崩壊して、シーツを濡らしていく。

『今はいないけれど、私達にはもうひとり娘がいるの。親戚筋なんだけど、学校から帰ったら家族全員、殺されていてね。祖母も、両親も、幼い弟妹も血だらけの海の中で喪ったあの子は、あの日からずっと笑ってる。─壊れてしまったのだと、皆は言うわ。私達も先は長くないから、あの子に遺せるものは、本当に少ないけど』

─ずっと、笑っている子。

『でも、遺せる縁は全部、遺すの。愛されて、他人を心から愛せるあの子を、“適合者”にしないために。大切な誰かをずっと愛し続けるために、一緒に生きていくために、幸せでいてもらうために、私達は便利になった今の時代も、武器を手にするの』

─立ち止まることを、やめない子。

「あらあら。どうしたの〜、沙耶」

……フィーみたいに、沙耶も頑張れるかな。
彼女の優しさに甘える今を、いつか懐かしいと思えるように。

(……強く、なりたい)

沙耶の為だけに、人生を投げ打つような選択をした相馬の為にも。

これ以上、大切な人を奪われないためにも。


沙耶の覚悟はまだまだ甘くて、守られてばかりで、嘲笑されてもおかしくないことばかりだけど。

(─それでも)

「……フィー」

「ん?」

「大好き」

「フフフッ、今日、初めて会ったのに。可愛い妹みたいね。……あの子みたい。そうね、私も大好きよ」

(大切だと思う相手はみんな、守れるようになりたい)

─目まぐるしい、1日の終わり。
沙耶はフィーの横で、ゆっくりと眠りについた。