世界はそれを愛と呼ぶ




「でもっ、相馬も不幸になるかもしれないって」

「……何故、そう思うの?」

「これまでを考えたら、私が甘えた人は皆」

「でも、沙耶の家族は生きてる」

「それはっ」

「……言い方失礼だけど、最初は御両親を狙わないかしら?私だったらそうするわ。─御両親を狙って、ボロボロになった貴女から優しい大人を奪い去って、貴女のお兄さん達の家族を、そうね、父親なんて甘いことは言わない。奥さんから奪うわ。絶望して苦しむあのお兄さん達は多分、貴女のせいじゃないと言うでしょう。そのタイミングで、彼らのお父さんを奪うの。ボロボロになった二人を、最期まで遺して、貴女を完全に独りにするシナリオを描くわ」

ニコッ、と、綺麗な笑顔を浮かべるフィー。

「私が怖い?─怖いでしょう。でも、これが私達が向こうで生きてきた術。奪おうとする相手には決して容赦せず、誰にも屈さない。何故なら、私達が屈することで奪われる、朝露のように消えてしまう命もあるから」

「……っ」

「だから、簡単に屈する訳にはいかないの。─ああ、でも、そういうシナリオを実行して、私達は自分達が無罪だ、正当防衛だ、なんて、言わないわ。悪人よ。この命で贖うべき悪人。だって、私達を殺そうとした彼らにも、家族はいるのよ。生まれてきた瞬間に、祝福した誰かはいるはず。誰かに育てられたのよ。そこにあるのが、策略か、偶然か、はたまた愛かは別として」

……フィーは目を細めて、どこか遠くを見ていた。
策略か、偶然か、愛か。

祝福されなかった命も勿論、あるだろう。
向こうでならば、尚更。でも、そんな誕生を嘆く暇もなく、何れかの理由で生き残ってしまった彼らはその瞬間から、その世界で生きていくしかなくて。

「さっきも言ったでしょう」

「……っ」

「亡くなった命を思い返し、涙するのは良いこと。貴女の中で消えなければ、その命は永遠を生きるわ。でもね、それを自分の責任にして、背負い込むことはいけないこと。その瞬間、貴女は彼らの命を冒涜したことになるのだから。─綺麗事でしょう。綺麗事に聞こえるでしょう。でもね、私はそう信じてる。じゃないと、私は私を守って死んだ家族の死を抱き続けて、動けなくなるもの」

幸せに生きてきたはずの少女。
一般人として生きてきたはずの、少女。

「“適合者”、なんて。他人が決めた物差しに従って生きる気は無いの。だって、私はお人形さんじゃないもの」

─ある日突然、学校から帰ったら、家族全員、祖母も両親も、弟妹も全員、事切れていた少女。