「沙耶、とりあえずおいで」
初対面の日ということは、完全に頭から抜け落ちそう。
本当、初めて会った気がしない。
沙耶も何も疑いもなく、素直に相馬に身を任せてくるから、そのまま抱き締めて、背中を撫でる。
「怖かったのに、よく頑張ったな」
「っ」
「偉い。偉いな。ずっと何年も、ひとりで耐えた。偉い」
「ぅ、っ」
「俺はまだ、『お前のせいじゃないよ』と言えるだけ、お前のことを知らない。でも、ひとつだけ、お前に言えることがあるよ」
相馬の肩に触れる、彼女の手に力が籠る。
幼子のように無抵抗で抱かれる沙耶は、顔を埋めたまま。
「─俺の幼なじみである、桜を救ってくれてありがとう。手を差し伸べて、何度も声をかけてくれた気がするって言ってたんだ。本当に命の恩人だ」
「っ、」
「ありがとう、沙耶。─お前がいて良かった」
「うぅー……っ」
泣いた。漸く、泣けたみたいだ。絞り出すようなそれは震えたままで、相馬は沙耶を抱き締め続けた。
─……暫くすると、落ち着いた沙耶が詳細を分かりやすく話してくれた。
手紙のこと、沙耶がイタリアに突然行った理由とか、手紙の相手と高校卒業したら、強制的に婚姻を結ぶようになっていること……それらを聞いた時の、健斗さんは般若を通り越して、明らかに何かになっていた。
「向こうに、沙耶と相手の名前が書かれた婚姻届があるって事?」
冷静にそう聞いたのは、これまで黙っていた大樹さんの妻である心春さんだった。
沙耶を妹のように思っているという彼女は怒りはしているものの、それを通り越して冷静であり、沙耶がその質問に頷くと、それを眺めていた心春さんの横で、勇真さんの妻である麻衣子さんがボソッと。
「有印私文書偽造罪じゃない」
と、呟いた。
その通りである。というか、この捨てられる前提で書いた手紙からみて、相手の知能はそう高くなさそうである。
いくら、沙耶が一通目を処分したからといって、捨てる前提なのが意味がわからないし、脅しも爪が甘すぎる。
自分で警察に突き出してくださいと言っているようなものだが……。
「そういや、この街の人間は警察に犯罪者をつき出せるんですか?」
相馬はふとした疑問を口にすると、健斗さんは頷いて。
「当たり前やろ。犯罪者を飼う趣味はない」
「じゃあ、“外”まで?」
「せやな。と言っても、基本的に伝手が聞きつけて、引き取ってくれるとゆうか……まあ、今回の件は沙耶の様子からして、かなり慎重にならんといかんやろな」
「そうですね……ここまで脅しているのを見る限り、全ての事件を噛んでいると自供しているのも同然です。手紙を残していることが証拠になるかもしれませんが、トカゲの尻尾切りになるでしょうね。手紙なので、言い逃れができます。書いた人間と、黒幕が同一人物とは限りません。今回の件に関して、御園も一役買いましょう」
相手方の狙いが分からないから、何とも言えないが。
子どもを“女の子”と断定している時点で、いくつか。


