世界はそれを愛と呼ぶ



「見つけたから、少し足掻いてみる」

「沙耶か」

「ん。……好きとか、愛してるとか、正直、そんな感情は何もわからんけど。でも、守らなくてはならないと、本能は思ってる。触れていて、安心してしまった。─伯父たちの言葉を、理解しかけた。だから、少しだけ」

相馬は、別に当主になりたかったわけじゃない。
同時に、人を無闇に傷つけたいわけでも無いのだ。
だから。

「俺、一旦、下に降りるよ。健斗さんたちに話をしなくちゃならないし……沙耶と一緒に置いてきた、フィーのことも気になる」

「分かった。……でも、僕はここにいる」

「ん」

茉白の手を握って、祈るように。

誰もが、大切に想う相手がいる。
大切にしたい相手がいる。

それを奪う運命を、纏めて捻じ曲げられる力を。

「─大体、ここを飛び出した後にあった話は理解した。彼女のことは後々突き詰めるとして、まずはこの手紙」

机の上に並べられた複数の手紙を見て、

「これ、最新……?懲りないな」

なんて、沙耶は少しでも平然を装うように手紙に触れようとして、その手を健斗さんに掴まれた。

「沙耶」

「っ、お、お父さん、怖い」

「怒られたくなければ、護衛を付けられたくなければ、大人しく答えなさい。家出までは目を瞑るが、この気色の悪い手紙を見て、俺達が何も思わないと?」

─明らかに怒っている健斗さん。それも、ガチギレ。

静かに階段を降りつつ、流れを見守っていると、それに気付いた大樹さんが手紙のうち一通をくれた。

「見ていいんですか?」

「ああ。でも、本当に気持ち悪い」

そう言って嫌悪感丸出しの顔を見ながら、手紙を開く。
便箋は2枚に渡り、どうも、定期的に送られているようで。中身は言われるように、本当に気持ちが悪かった。

ゾワッとする恐怖というか、手紙越しに気持ち悪さが溢れており、沙耶はどこか無理して笑っている。

そんな顔で笑っても、ここにいる人にはお見通しだと既に分かっているだろうに、それだけ知られたくないのか。

彼女とはたしかに今日が初対面だったが、彼女のこれまでの日々を報告で見ただけでも、何となく察する。

「沙耶」

繰り返すように名前を呼ばれ、彼女の肩は震えている。
悩んでいるのだろう。きっと、彼女の行動理由は昔からずっと同じであり、怖いことも同じなのだ。