世界はそれを愛と呼ぶ




「─うん、やっぱり」

地上に帰ってきて、少し。
黒橋家の一室を借りて、茉白という少女を寝かせた。
茉白の傍には、感情を持て余した櫂が複雑そうな顔で座っており、相馬は茉白の容態を確認した後、櫂の肩に触れた。

「櫂。お前、この子を伴侶にするつもりか?」

「……だとしたら、どうする」

「いや、どうもしない。祝福はするけど。反対とか、そういう話ではなくてな……」

御園の当主は【四季の帝王】と、古くからされている。
そして、櫂の家は【四季の代表者】と呼ばれ、それに続き、春、夏、秋、冬、と、存在する各家を総称して、【四季の家】と呼ぶ。

御園からすれば、櫂の家は直属のようなものだった。
【四季の代表者】は、【四季の帝王】の許可無く、婚姻を結ぶことが出来ない決まりは、本当にクソなルールだと思っているが、それでも、この決まりを無くせないのは、過去、自由婚姻を認められていた時代、ひとつの婚姻がきっかけで、【四季の代表者】たる彼の家が崩壊しようとしたからである。

四季をまとめている存在である彼の家の崩壊は認められず、彼らの婚姻には『御園の当主御目通り』という項目が備わっているのも、そのためだ。

【四季の代表者】がしっかりとしていれば、【四季の家】で例え何が起こっていたとしても、この国に災厄をもたらすことは無い。

だから、御園は見ないふりをしてきた。
【四季の家】がどれだけ乱れようとも、見ないふりを、否、見る時間を取れないことを理由に、目を逸らした。

「……目を向ける時かな」

「【四季の家】か?」

「うん。秋の家の娘があんな所にいたなんて、普通に考えておかしいだろ。とりあえず、健斗さんにお願いして、この街で匿ってもらうつもりだけど……」

「その方が良いだろうな」

彼女は、自分の名前を【立華真姫(タチバナ マキ)】と答えた。
言葉を話せないようだから、筆談だったけれど。
立華、は、秋の家の姓ではない。

でも、その身に纏うものは【秋】の。

「めちゃくちゃ、嫌な予感がするんだ」

「……」

「でも、曽祖父からの問題だしなぁ……四季の家」

「解決したいのか?」

「まあ。これまでは御園の家の中が慌ただしくて、手をつけられなかったから。手をつけるなら、今だろうな。自分の子どもには基本的に、余計な憂いを残したくないし」

「……結婚するのか」

「するよ。当主だから」

それは既に、決めていたこと。
番と出会えれば、番と生きていくことが幸せなんだろう。

でも基本、出会えることが奇跡だ。そして、想い合えるのはもっと奇跡であり、相馬は半ば諦めていた。

しかし。