世界はそれを愛と呼ぶ



「……っ、」

にっこりと笑った姿はどこか、ひいおばあちゃんを思い出させる。
本当に穏やかで、優しいおばあちゃんだった。

「お母さんにも、会って欲しいな……」

「あ、奥様にでしょ!私も会わせてあげたいの。だって、セイラ様が遺された宝物だもの。ねっ」

お母さんを守って死んだ、おばあちゃん。
写真も幼い頃のものしか残っていないから分からないけど、きっと、とても綺麗で優しい人だったんだと思う。

「あ、私のことは、フィーって呼んでね!フルネームはちょっと、この国の発音は難しくて」

「別に、向こうの言葉でも大丈夫だよ。貴女が話しやすいので」

相馬に抱かれたままってのは、些か失礼かなとは思ったんだけど、

『本当?助かる〜!それより、ああ、良かった!そうやって、貴女が身を任せられる相手がいて!奥様達に報告しなきゃ♪︎あ、私の名前ね、えっとね、フェリーチェっていうの。だから、フィーね!』

彼女は全く気にしていない反応で、楽しそうに笑った。
相馬もフィーの捲し立てる言葉に笑う。

『宜しく、フィー。俺は御園相馬。呼びやすい呼び方で大丈夫だ』

『相馬も話せるのね!最高!!』

向こうで過ごしていた沙耶だけではなく、相馬も話せることが意外だったのだろう。
あまりに嬉しそうな雰囲気に、相馬も楽しそうで、何故かそれに変な心地になる自分に、沙耶は首を傾げた。

「どうした、沙耶」

「具合悪い!?」

自分の胸に手を当てて首を傾げていただけなのに、二人はすごく心配してくれているみたいで、沙耶は笑った。

『何も無いよ。それより、この施設をどうにかしなきゃ……茉白のこともあるし、相馬に話を聞かなくちゃならないし、フィーはどうする?』

『沙耶の家族に会うの?』

『そうそう。話をしない?きっと、お母さんも聞きたいと思うんだ。自分の祖父母が生きてるなんて、夢にも思ってないだろうし』

『沙耶は伝えてないの?』

『伝えてない、というより、伝えられてない、かな。イタリアに行っていた理由も、知りたいことがあったから、とは伝えてあるんだけど、その詳細は話すことが出来てなくて─……』

『じゃあ、とりあえず帰るか』

『フフッ、私は2人について行っちゃおっと』

話さなくてはならないことは沢山ある。
沢山あるけど、話せていないことも。

でも、研究を進めてきてよかった。
少なくとも、3人は救えたのだから。

『帰り道で、残された人がいないか見なくちゃ』

『でも、向こう側に出入口があった感じ、嫌だよな』

『あそこを潰してしまった方が早いかもね〜』

なんて会話しながら、地上に帰って。

沙耶は自分の詰めの甘さに悔いることになる。

「沙耶、ちょっと話そうか」

珍しく怒っている父親を前に、沙耶は。

「は、はあい……」

と、気の抜けた返事しかできなかった。