彼女は相馬の手を借りて立ち上がると、相馬が歩き出したタイミングに合わせ、共に後ろからついてくる。
「そ、相馬」
「うん?」
「彼女は大丈夫なの?ほら、私─……」
人助けに邪魔になるならば、先に家に帰っていた方が良い。だけど、相馬は「ああ」と呟いて。
「彼女は大丈夫だよ。秋の血筋だから」
「?、そ、そうなの?」
秋、とは、誰かの名前だろうか。
よく理解できなかったが、とりあえず、納得しておく。
後ろからついてくる彼女は沙耶と目が合うと、ニコッ、と、微笑み、美しい立ち振る舞いから、どうして、こんな所に。どうして、誰に。って思いが、溢れ出す。
それからしばらく、続く鉄格子の中は無人で、相馬はスタスタと進んでいく。
相馬の後ろをついてくる彼女は時折、茉白を抱えた御杜さんを振り返りながら、ついてくる。
抱かれた茉白は、未だ目覚めない。
(茉白が廃墟に向かったと思った。でも、鉄格子の中に入ってるのを見たら……)
ゾワッ、と、足先から寒気が上がってくるような。
(私はまた、誰かを巻き込んでしまい始めている……?)
自分が、自分の過去の罪で裁かれるのは構わない。
仕方がない。だって、それが私の。
「─変なことを考えるなよ、沙耶」
「え……?」
「大丈夫。助けるから。抱え込まなくていいから。……もし、この廃墟全てがお前にその顔をさせる元凶ならば、徹底的に潰してやる」
「……」
「手を出してはならないところに、手を出したんだ」
─相馬は表情は変わってないけれど、かなり怒っているようだった。
灯りの代わりの炎は激しく揺れ、所々からは何かが割れる音がする。
「っ」
相馬が不思議な力を使っている事実も気になるが、それよりも、割と古いこの建物が危ないんじゃないか─そう思った時、
「─御当主、やっぱり、貴方様が!」
玲瓏な声が聞こえてきた。
顔を上げると、少し先の鉄格子から顔を覗かせる綺麗な人が、こちらを見て、嬉しそうに笑った。
「……捕まったのか、忍び込んだのか」
「普通に捕まりました。困ったことに」
「そうか。出られるのだから、出れば良いものを」
「いや、ここにいる人達を考えたら、そんな簡単に出られませんよ。……逃がしても、黒橋の方に迷惑がかかる」
長い黒髪をひとつに括りあげ、彼女は躊躇いもなく、鉄格子を曲げる。そして、普通にそこから出ると、相馬の前に最敬礼をし、まだ遠くに見える扉を指差した。


