世界はそれを愛と呼ぶ




「櫂、お前な......」

「?、お前がいるなら大丈夫だろ?」

「......」

否定出来ない。我ながら引くが、櫂の言うように、相馬の能力は桁違いな能力である自覚はある。

「沙耶、口元は無理に押さえなくていい。その為にこうして密着する体制を取ったんだ。でも、念の為、バランスを崩さないよう、肩に手を置いておいてくれ」

「えっ、マスクも無しでいいの」

「後で説明するけど、うん。櫂、なるべく小さくするから、もっとこっち」

「入口が隠されてる」

「だから、こっちだって」

─いつも冷静で、何事にも興味がなさそうで、馬鹿ばかりで頭が痛くなるだとか、正しく【狂人】であった櫂をここまで変な奴にしたハルは間違いなく、櫂の実家で大歓迎されることだろう。

相馬が指差した先、自前のマスクを即座につけると、見に行く櫂。

「……ハル、大切にされてる」

「ん?」

「ほら、私達の街はわけアリでしょう?だから、そこに住んでる人達も……ハルも、そのひとりなの」

「入れ替わっているとか、そういう?」

「うん。私が幼い頃、現れた彼女は一緒だった男の子を捕まえて、『私は私を消す。だから、私を呼ばないで』って言って、本当にいなくなっちゃった」

「……」

「事件のせいで、めちゃくちゃ傷付いてて。泣くことも分からない、言葉も届かない、居なくなった家族を求めて泣くあの子を、誰も抱きしめてあげられなかった。だから、消える道を選んだ。その道を選んだ彼女を、私は羨ましいって思ったんだ」

健斗さん達を含む、御園家の方でも集めていた情報。
健斗さんの一人娘、沙耶─彼女の情報はとても少なく、それでいて、街の人々からは慕われている証言の数。

「……消えたいのか?」

相馬が尋ねると、彼女は哀しそうに笑った。
即答するわけでもなく、ただ、ただ、哀しそうに。
答えを見つけられないんだと言うように。

言葉で表現できない分、身体は正直に教えるんだろう。
彼女の、相馬の肩に置かれた手は震えていた。

「今はまだ、消えられなくなったから」

─それは未だに、未来への希望を見つけられないということでは無いだろうか。
悲しいことだ、なんて、そんなことは思わない。
ただ、彼女がどこか遠いところを見ながら、未来を語れないのは嫌だと、酷く血が騒いているような気がして。

「あ、ほら、行こ。御杜さん見えなくなった」

相変わらず、周囲を慮ることがない男である。

櫂の変わらない態度に安心しつつ、呆れつつ。
相馬は沙耶を抱いたまま、隠されていた扉に入った。